これまで競争戦略論では、同業他社は競合ととらえられていた。しかし競合と協調することで、利益を上げている企業も多くある。今回は競合企業と共存を図る「協調戦略」について、GE、セブン銀行、コスモス・ベリーズ、グリコの事例をもとに論じていく。

協調戦略とバリューチェーン

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山田英夫(やまだ・ひでお)
早稲田大学ビジネススクール(大学院商学研究科)教授。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)後、三菱総合研究所入社。主に大企業の新事業開発のコンサルティングに従事。1989年早稲田大学に移籍。現在に至る。2003年学術博士(早大)。専門は競争戦略、ビジネスモデル。アステラス製薬(株)(2001年~2012年)、NEC(2011年~)社外監査役を兼務。

 かつての競争戦略論では、同業他社は競合ととらえられていた。しかし近年、他社とは競争するだけではなく、協調の面もあることが認識されるようになってきた。協調戦略とは、競合企業とできるだけ競争をしないで共存を図る戦略である。

 協調が最も多く見られるのが、デファクト・スタンダード(事実上の標準)を獲得する場合で、同じ規格を採用する企業が多い方が有利なためである。しかし協調は、規格の絡まない分野でも起きている。例えば自動車業界では、製品ラインを維持しながらも効率を追求するために日産自動車と三菱自動車の間では、相互OEMという方法がとられている。

 本稿では協調戦略を考えるにあたって、企業のバリューチェーン(価値連鎖)に注目する。バリューチェーンとは、企業が生む価値を表すものであり、かつては、バリューチェーンは1つの企業内で完結しているケースが多かったが、現在はどの機能を持ち、どの機能を持たないかを選択する時代になった。

①自社資源の完結性による選択肢

 他社と協調する場合、事業を進める上で、自社でバリューチェーンの機能がすべて揃っている場合と、そうでない場合では、協調の仕方が異なる。必要とされる機能を自社がすべて持っている場合は、競合企業の機能の一部を取り込み、競争しながら協調することが可能である。これは、自社の製品・サービスを販売しながら、競合企業の製品・サービスも合わせて販売する例が典型例である。

 一方、業界で必要とされるバリューチェーンの機能を、自社ではすべて持っていない場合は、相手企業のバリューチェーンの中に入り込み、協調していく戦略が有効である。競合企業に入り込む部分がわずかであっても、より多くの企業に入り込み、その部分で寡占を作れれば、利益を上げることができる

②バリューチェーンの機能の代替と追加

 競合企業と戦わない戦略を考えるもう1つの視点として、既存のバリューチェーンの機能の一部を代替するのか、新たな機能を加えるのかという選択肢がある。