1月下旬、オバマ大統領が突然「金融規制案」を発表した。規制案の骨子は、基本的に金融機関が大きなリスクを取ることを制限するものだが、借り入れによって、金融機関の規模が大きくなり過ぎることに良い歯止めを掛けることに主眼が置かれている。

 当初予想されたよりも規制の内容が厳しいものになったことや、今回の発表が、リーマン・ショック以降における欧米金融機関の経営悪化の直後というタイミングもあり、金融専門家の一部からは、「大恐慌時のグラス・スティーガル法の復活」という声が上がっている。

 今回の発表は、金融市場を一時的に大きく動揺させた。金融市場を萎縮させかねない不安要因に満ちた内容となっているからだ。

 たとえば、今回の規制案が実施されると、一般的に銀行はリスクの高いヘッジ・ファンドや未上場の株式を扱うプライベート・エクイティー・ファンドを保有したり、それらに出資することができなくなる。

 また、トレーディング業務も制限され、借り入れによって資産規模を拡大することも制約されることになる。

 それが現実のものになると、多くの金融機関は、トレーディングなどの市場関連業務を大きく縮小せざるを得ない。金融機関が金融市場から撤退することになると、マーケットの参加者は大きく減少するだろう。

 市場参加者が減ると、金融商品の売買量が減少し、「いつでも、買いたいときに買いたい商品を買い、売りたいときに売れる」という、マーケットの基本的な機能が低下することになる。それは、市場の存在意義を危うくすることにもつながりかねない。

 また、現在、多額の金融商品を保有している金融機関が市場から退出するためには、手持ちの金融資産を売却することが予想される。そうなると、金融資産の価格には下押し圧力がかかる。仮にそうした思惑が台頭してくると、投資家は保有する金融資産の規模を小さくする方向に動き出すだろう。

 最悪の場合、「売りが売りを誘う」という相場急落の事態を招くことも懸念される。何ともタイミングが悪いときに、悪い材料が出てきたものだ。

 では、そもそもこの規制案は本当に必要なものだったのか? 実際、今回の規制案に対しては、欧米の金融関係者中心に多くの批判が出ている。