過去50年の間に、イノベーションに関する数々の方法論が生み出されてきた。本記事の筆者らによれば、それらはつまるところ1つの包括的なプロセスに集約できるという。①知見の獲得、②問題の特定、③ソリューションの開発、④ビジネスモデルの策定だ。4つのステップに常に立ち返れば、不確実なイノベーションのリスクを減らせるという。

 

 不確実性の高い業界で、どうすれば企業はイノベーション能力を持ち続けることができるのだろうか。いかにして、市場でイノベーション・プレミアムを達成し維持できるのか(イノベーション・プレミアムはフォーブス誌が算出。株式市場が企業のイノベーション能力に対する期待に基づいて与えるプレミアム)。

 我々の調査によれば、その実現を後押しできるマネジャーは、従来とは異なる一連のツールを活用している。それらはスタートアップの世界で磨かれ、不確実性に対処するために特別に考案されたツールである。

 これらのツールは様々に異なる呼び名で世に出ているが(例:リーン・スタートアップデザイン思考、仮説指向計画法、アジャイルソフトウェア開発など)、実は大きな共通性がある。違っているのは主に、それぞれがイノベーション・プロセスのどのステップに重点を置くかである。たとえば、デザイン思考は「顧客が抱える問題の理解」に重きを置くが、リーン・スタートアップは「ソリューションの実験」を重視する。もう1つ特筆すべき点として、これらのツールはスタートアップ企業にとっては採用しやすい半面、日々の業務遂行に悪戦苦闘しているマネジャーにとっては扱いづらい。

 我々は調査の過程で、これらの見識を一連のイノベーション・プロセスに落とし込んだ。そして、成功を収めているイノベーター企業がこれらの概念をいかに取り込み、自社のイノベーション・プレミアムを高めてきたのかを明らかにした(その詳細は我々の共著『成功するイノベーションは何が違うのか?』にまとめている)。

 このプロセスは表面上こそ単純明快に見えるかもしれない。しかし失敗したプロジェクトで毎年膨大な金額が無駄に消えていることを考えれば、その実行は決して容易ではないことがわかる。本来、イノベーションは複雑なプロセスであり、上図のどこか途中の地点からスタートすることもあるかもしれない(たとえば、ソリューションやビジネスモデルの構想がすでにある場合)。しかしその場合でも、ビジネスの拡大を試みる前に各ステップへの対処が必要であること、そうしなければ失敗の危険が大きいことを留意するためにこの図は役に立つはずだ。