アルゴリズムのみに基づくマーケティングには落とし穴がある。顧客のコンテキストを十分に加味できない、顧客のプライバシーを害し警戒心をあおる、マーケター自身の自己満足と油断を招く、などだ。「人間の手+アルゴリズム」による効果的なマーケティングのあり方とは?

 

 本記事はアルゴリズムによって執筆された――たとえば私がこう告げ、皆さんがそれを信じるものとして、どう反応されるだろうか。おそらくは不気味だと感じ、内容に疑念を抱くだろう。強く感情を動かされることもないはずだ。

 それが自然な反応である。ところが、企業はアルゴリズムについて顧客目線で考えることができていないように思われる。マーケティングのツールとしてアルゴリズムさえ活用すれば、それでよしとしているのだ。しかし企業は、顧客にアプローチする際に人間味を加えること、つまり実際の人間を介在させる方法を模索すべきなのだ。本記事ではその理由を説明したい。

 コンピュータサイエンスの分野で生まれたアルゴリズムは、単に「Aの場合はBである」という「If-Thenルール」の集合体だ。しかしさまざまな要因によって、企業は実に多くのアルゴリズム活用法を――特にマーケティングの分野で――見出すようになった。使い勝手のよい予測分析ツールやデータ・ビジュアライゼーションのツールの登場、モバイル機器の急速な普及、顧客行動を追跡・測定する能力の向上などがそれを後押しした。

 マーケターはアルゴリズムによって、顧客固有の情報(人口統計的属性、過去の行動、類似する顧客の選択など)を利用してオファーを個々人向けにカスタマイズして提供できる。それをリアルタイムで実行できるのも利点だ。企業にとっては、顧客の追跡やクロスセルの実施、販売促進に役立つ。たとえば銀行は顧客への新商品の提案に、オンライン小売業者は価格の設定・変更に、メディア企業はレコメンドの実施やストリーミングコンテンツおよび広告の配信に、アルゴリズムを活用する。

 アルゴリズムを駆使したマーケティングはかように広く受け入れられ、発達している。ただし、企業は実行に当たっては慎重を期すべきである。以下にその4つの理由を挙げよう。

●アルゴリズムはコンテキスト(状況・文脈)への感度が十分ではない
 効果的なマーケティングには、各顧客に合わせたメッセージが欠かせない。顧客の反応は、どんなにありふれた製品に対してでも、たえず変化し続けるさまざまな要因によって敏感に左右される。昨夜の睡眠状況、今現在の気分、空腹感、前回の選択、といった個人的な要因。そして天気、その空間における他者の存在、BGM、さらには天井の高さなどの環境的な要因。その瞬間のありとあらゆる事柄が顧客の反応に影響を及ぼしうる。ところがアルゴリズムは、ほんの一握りの要素しか活用できない。したがって、必然的にそれらのみに重点が置かれ、コンテキストに関する極めて重要な情報が考慮されないことが多い。たとえば顧客がツイッターやフェイスブック、オンラインショッピングをしている時の、心身の状態や物理的環境などは勘案されにくいのだ。