
駒澤大学高等学校
井上誠二校長
曹洞宗の精神を受け継ぐ駒澤大学高等学校は、禅の教えに基づく「行学一如」を建学の理念に掲げている。これは、日常生活における全ての行い(行)と学問(学)を一体のものと捉え、心身のバランスを重んじる全人教育を意味する。学びと生活が相互に影響し合いながら、真の人間力を育むことを目指している。
2025年春、同校の舵(かじ)取りを任されたのが井上誠二校長だ。「心の教育こそが、生徒の可能性を花開かせる原点です」と井上校長。これまでの教育現場での経験を生かし、生徒一人一人の心に火をともすことの大切さを説く。
「心の教育というと、優しさや思いやりに目が向きがちですが、私は“心が変わることで、全てが動きだす”と考えています。注意されて仕方なく従うのではなく、その意図や意味を理解し、内面から納得して行動を変えることが重要です」。その変化が、自主性や判断力、そして挑戦する意志につながるという。
井上校長が重視するのが、禅の言葉「卒啄同時(そったくどうじ)」に象徴されるような、教員と生徒の響き合いによる成長だ。卵の中から雛(ひな)が殻をつつき、外から親鳥が応えるように、教育もまた、適切なタイミングと関わりがあってこそ力となる。「やる気や関心が芽生えたときに寄り添い、背中を押すことが、何より大切です」。
心の教育が気付きを与え
学びの深化や進学に影響
日常の授業では、生徒の「なるほど」「面白い」「分かりやすい」という気付きを重視。修学旅行で訪れる沖縄では、平和学習を通じて戦争の悲惨さを知るだけでなく、「どうすれば争いを避けられるのか」といった現代的な問いも投げ掛ける。宗教教育も柱の一つであり、全学年で週1時間の仏教の授業を設け、永平寺(福井県)や總持寺(そうじじ)(神奈川県)での修行体験を通して、自己と向き合い、感謝と謙虚の心を育てる機会を提供している。こうした体験が、深い内省と気付きにつながり、生徒たちの内なる意志を育てていく。
また、文武両道も駒澤の伝統。生徒の8割以上が部活動に励み、全国レベルの強豪も多い。日々の努力の中で心身を鍛え、仲間と共に成長する過程が、非認知能力を培う「隠れたカリキュラム」として機能している。
こうした学びを積み重ねた生徒たちは、自らの将来と真摯に向き合い、多様な進路を切り開いていく。高大連携も盛んで、ゼミ参加や模擬授業を通じて大学での学びを早期に体感。例年、約6割が駒澤大学に進学する一方、近年は京大や一橋大など国公立大や医学部、早慶上理といった難関大への進学も着実に増加している。
「“人事を尽くす”とは、成功の保証がない挑戦に本気で向き合うこと。たとえ結果が思い通りでなくとも、その過程で得た経験こそが、将来の土台になります」。そう語る井上校長のまなざしの先には、生徒たちの未来がまぶしく広がっている。
