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生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

中学生の貧困・いじめ…保健室でしか聞こえないSOS

みわよしこ [フリーランス・ライター]
【第63回】 2016年9月9日
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「自分は貧しい」「自分は困っている」とは言いにくい。まして多感な中学生なら、なおさらだ。しかし、小さなSOSを素直に出せるかもしれない場所がある。学校の保健室だ。

中学校の保健室に集まる、声にならないSOS

保健室は子どもたちの「最後の砦」だ

 2016年8月10日に刊行されたばかりの書籍『ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』(朝日新書。以下、『ルポ 保健室』)が、静かに反響を呼んでいる。

 タイトルどおり、舞台は「保健室」だ。公立中学校の保健室の日常が、つとめて感情を込めず、淡々と、事実を……という筆致で描かれている。にもかかわらず、保健室を訪れる中学生たちの思いや声にならない叫び声が、行間から噴き出してくるように感じられる。大人社会の中で「理解できない」「問題の子」とされがちな中学生たちは、しばしば、貧困・虐待・いじめなどの中で、小さな身体を張って十余年を生き延び、闘い疲れている。中学生になると、思春期の「性」の問題も加わる。性的虐待・不本意な売春・LGBTなど自らの性認識を含めて、「生きづらさ」が大きく増幅されがちだ。

秋山千佳(あきやま・ちか)氏 1980年生まれ、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当 。2013年に退社し、フリーのノンフィクションライターに。子どもや若者の生きづらさをメインテーマに取材・執筆している。著書に『戸籍のない日本人』(双葉新書)。

 著者は、ノンフィクション・ライターの秋山千佳さん。

 「保健室を取材すれば、いまどきの子どもの問題が見えてくるのではないか」(『ルポ 保健室』より)

 と感じた秋山さんは、新聞社に勤務する記者だった2010年、保健室の取材を開始したという。取材を重ねるにつれ「当初の予想を絶するような事情を抱える子どもたちと出会う」ことになった秋山さんは、「貧困は、どの保健室でもありふれたもの」という現実を述べつつも、「子どもの立場からすると(略)苦しさは、一つのキーワードだけでは言い表せない、いくつもの困難が絡みあった状態」という。

 しかし、困難な状況にある中学生たちが教室の中でSOSサインを出すことは少ない。クラスメートの中で、教員たちの中で、常に評価され緊張を強いられる場で、弱みを積極的に見せたいとは思わないだろう。しかし保健室は、安心して弱みを見せられる場だ。ちょっとした体調不良を理由として行くことのできる保健室は、今、「保健室ほど、現代の子どもたちをとりまく問題を明瞭に見渡せる場所はない」という位置づけにある。

 もしも、そこにいる「保健室の先生」こと養護教諭が例外なく、ちょっとした体調不良の相談や雑談の中から子どもたちのSOSサインを感知し、たわいない雑談を繰り返しながら、置かれている環境や直面しつづけている困難を探り出し、支援のネットワークを作り上げられる状況であれば、全国の学校という学校にある保健室は「子どもたちを救う最前線」ともなりうる(以上、引用は『ルポ 保健室』より)。

 『ルポ 保健室』は、どのような経緯を経て生まれたのだろうか?

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、1匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

生活保護当事者の増加、不正受給の社会問題化などをきっかけに生活保護制度自体の見直しが本格化している。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を紹介しながら、制度そのものの解説。生活保護と貧困と常に隣り合わせにある人々の「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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