近年、日本の東京大学を目指す中国人エリートが絶えない。なぜ、中国人エリート層はわざわざ海を渡り、東大への留学を目指すのか。実際に、東大で学んでいる中国人留学生たちにインタビューを重ねると、意外な本音が明らかになってきた。(ジャーナリスト 中島 恵)

自分の経歴を表に出したくない
東大留学中の中国人女子学生

東大留学を「人生リベンジの場」「起死回生の場」「一発逆転の場」として捉えている中国人は多い(※写真はイメージです)

「私、中国ですべての志望校に落ちてしまって……。中国の大学入試の当日、風邪で熱があって意識朦朧としていたんです。結果は……惨敗でした……。それで意にそぐわない無名の大学に入学したんですけど、ずっと後悔していたんです」

 東京大学本郷キャンパス内のカフェで、うつむき加減でこう語り出す26歳の中国人大学院生――。

 今年5月、東大に留学中の中国人を探していたとき、知り合いの紹介でたまたまこの女子学生と出会ったのだが、最初に彼女から“条件”をつけられた。それは、現在の研究科や指導教授名、中国の出身大学名などの詳細を記事に書かないこと。

 なぜかというと、あまり自分の経歴を表に出したくない理由があるからだ。

「自分の学歴がずっとコンプレックスだったんです。北京にあるその無名大学に通うようになって、性格も暗くなって、高校時代の友人ともあまりつき合わなくなりました。このまま私は三流の人生を歩むのかしら……って思って悲しんでいたとき、大学で日本人の先生と出会いました。その先生の影響で日本に憧れるようになり、日本留学をして“人生をリベンジしたい”と考えるようになったんです」

 中国では浪人は一般的ではない。その頃は海外留学も現実的には考えられなかったので、挫折感を味わいながら悶々と過ごしていたが、あるとき、学会で北京にきていた東大の教授と偶然知り合う機会があった。その教授に頼み込み、なんとかして、まず研究生として東大に入ることはできないか、と頼み込んだ。結果、来日することができ、一心不乱に勉強して、東大大学院修士課程(文系)に入学することができた。

 彼女は目を輝かせて言う。

「今は晴れ晴れとした気持ちですね。東大以外の日本人に会えば『すごい。勉強ができるんですね』と尊敬のまなざしを向けられるし、中国に帰ったら帰ったで、中国人からの『日本の東大に留学しているなんてすごい。天才!』とおだてられ、誇らしげな気持ちになります。とてもうれしいし、自分が生まれ変わったような気持ちになります」