ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。
【第20回】 2016年10月19日
著者・コラム紹介バックナンバー
原田まりる [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

【『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』試読版 第15回】さきほど話していた“悪”について、もうひとつ話そう

1
nextpage

17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会って、哲学のことを考え始めます。
そしてお休みの土曜日、またまたやってきたニーチェは、悪のことについて話しはじめるのでした。
ニーチェ、キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガー、ヤスパースなど、哲学の偉人たちがぞくぞくと現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていく感動の哲学エンタメ小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』。今回は、先読み版の第15回めです。

そうだ。悪についてだ、こんな晴れやかな朝には似合わないか?

 「うう、お腹がすいた、アリサ何かないだろうか」

 「んーごめん、家には何もないや、ガムと飴くらいしか」

 「そうか……」

 「じゃあ、近くのコンビニに行くか、それか市役所らへんにあるパン屋さんでも行く?」

 「パン?そのパン屋は美味いのか?」

 「うん、まあ口に合うかはわからないけど、美味しいと思うよ」

 「そうか、ではアリサいますぐにパン屋に向かうぞ!さあ急ぐのだ!」

 ニーチェは急に元気を取り戻し、玄関の外に飛び出した。朝からなんて慌ただしい人なのだろう。一人でゆっくり過ごすつもりの休日は、ニーチェが訪ねてきたことによって急に慌ただしく、賑やかな朝へと変わったのだった。

 そんなニーチェのペースに合わせるべく、私はスウェット姿のまま、家の鍵と財布だけ持ちニーチェのあとを追った。

 外へ出ると、まだ青く染まりきっていない、白っぽさの残る空が淡く広がっている。

 町を囲む遠くの山々には白い霞がぼんやりと漂い、まるで山があくびをしているようにも見える。

 鳩の鳴き声と雀のさえずりは朝を知らせ、まだ機能していない町の路地では、石畳を濡らす打ち水の音、ひしゃくが桶に当たる小さな木の音と、大通りを走る車の静かなエンジン音が、街を徐々に目覚めさせていく。

 まだ涼しく、しっとりやわらかい、京都の朝の中を、私とニーチェは歩いた。

 私が一人暮らしをするマンションから、市役所へと行く道の途中には、「京都御所」と呼ばれる広大な名所がある。正式には、京都御所というのは歴代の皇室の方が住んでいた建物のことで、京都御所を含む広大な敷地は京都御苑というらしいのだが、京都の人たちは京都御苑のことを「京都御所」と呼んでいる。

 そんな京都御苑は、今出川駅と丸太町駅の間に広がっており、外から見ると、一見森のように見えるのだが、中には池や、綺麗に舗装された開放感溢れる真っ白なじゃり道が広がっており、外側から見た森のイメージとはまったく異なり、整備された空間が広がっている。

 私たちは、そんな京都御苑の南側の道を通り、市役所のそばにあるパン屋さんへと向かった。

 京都御苑の南側にある丸太町通は、京都御苑に茂る木々が静かに揺れ、誰を気にすることもなく、鳥がそれぞれに自由にさえずっていた。

 「アリサ、さきほどの話の続きをしようではないか」

 「さっきの話って、悪とか善について?」

 「そうだ。悪についてだ、こんな晴れやかな朝には似合わないか?」

 「いや、大丈夫だよ。逆に楽な気持ちで聞けるわ」

 「そうか、さきほど話していた“悪”について、もうひとつ話そう」

 ニーチェはそう前置きすると、深呼吸をしてから静かに、語りだした。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
自分の時間を取り戻そう

自分の時間を取り戻そう

ちきりん 著

定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
生産性は、論理的思考と同じように、単なるスキルに止まらず価値観や判断軸ともなる重要なもの。しかし日本のホワイトカラー業務では無視され続け、それが意味のない長時間労働と日本経済低迷の一因となっています。そうした状況を打開するため、超人気ブロガーが生産性の重要性と上げ方を多数の事例とともに解説します。

本を購入する
著者セミナー・予定
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


原田まりる(はらだ・まりる) [作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター]

1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、 哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。 著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある。


ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。

17歳の女子高生・児嶋アリサはアルバイトの帰り道、「哲学の道」で哲学者・ニーチェと出会います。哲学のことを何も知らないアリサでしたが、その日をさかいに不思議なことが起こり始めます。キルケゴール、サルトル、ショーペンハウアー、ハイデガーなど、哲学の偉人たちが続々と現代的風貌となって京都に現れ、アリサに、“哲学する“とは何か、を教えていきます。本連載では、話題の小説の中身を試読版としてご紹介します。

 

「ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。」

⇒バックナンバー一覧