まさか、本連載を読んで株式投資を行なっている人や組織はいないと推測している。第三者が行なった分析結果に頼るよりも、自分自身で実際に確かめることが何より重要だからだ。

 ここで「実際に確かめる」とは、企業の有価証券報告書などを取り寄せて経営分析を行なうだけでなく、工場見学や店舗見学を行なったり、商品や製品を実際に利用したりすることを含む。本連載で取り上げている上場企業は、それを基本路線としている。

 したがって、ジャスダックやヘラクレスといった新興市場の上場企業は、本連載ではいまのところ取り上げていない。実際に何をやっているのか「体感」できないのに、有価証券報告書だけを見て、机上の判断を行なうのは難しいからだ。新興市場銘柄は業績のブレが大きい、という事情もある。

 ただし、楽天やスターバックス コーヒーなどのデータは、手許に一通り取りそろえている。興味深い分析結果を得ているので、いずれ本連載で紹介したいと考えている。

 ということで、筆者は数か月に1社のペースで工場見学を行なっている。さすがに企業秘密のある工場棟には近づけないが、それでも現場は驚きに満ちており、面白くてたまらない。工場見学は、個人的な趣味といってもいいだろう。

 かつては実名で申し込んでいたのだが、見学に赴いた先の企業側が筆者の名を知っていると、逆に質問責めに合うケースが多かったので、現在は筆者の顧問先企業を経由して、匿名で申し込むことにしている。

 以前、某上場企業の工場見学に申し込む際、顧問先企業の名を使って「○○工業、他1名」としたところ、当日、工場の受付で渡された名札に「○○工業 他1名様」と印字されていた。筆者はそれ以来、顧問先の間では「ほかいちめぇ様」と呼ばれている。

製造業にもかかわらずなぜ?
「薄利多売の消耗戦」を展開する日立

 ということで、工場見学をしたことがあるかどうかは伏せたままでの、今回は日立製作所(以下、日立と略称する)の話である。筆者の住む栃木県小山市と、茨城県日立市とは直線距離にして85キロほどの距離なので、問わず語らずとも日立グループの関係者や出身者にはよく出会う。

 次回コラムは「円高の恐怖」をテーマに、東芝・パナソニック・日立といった電機メーカー各社の「円高限界点」を具体的に解析してご覧に入れる予定だが、その前に今回は、日立の経営戦略に関する検証を行なう。

 次の〔図表 1〕は、筆者オリジナルのSCP分析に基づいて描いたものだ。

 SCPは“Sale-Cost-Profit”の略称であり、和名を「タカダ式操業度分析」と呼ぶ。〔図表 1〕は、本連載で経営分析を行なう際、突破口となるものだ。

 この図表で描かれている黒色の実線は、実際売上高の四半期移動平均である。11兆円から9兆円の間で、きれいな「正弦曲線(sinθ)」を描いている。しかしその内実は、新興市場の数十社分を簡単に飲み込んでしまうほどの「津波エネルギー」だ。