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元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」

韓国野党が朴大統領の弾劾訴追をためらう事情

武藤正敏 [元・在韓国特命全権大使]
【第13回】 2016年11月8日
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市民の朴槿恵大統領退陣要求はこれから強まることも予想される Photo:AP/AFLO

朴槿恵大統領が
「国民への談話」で語ったこと

 朴槿恵・韓国大統領は11月4日午前、国民向け談話を発表した。

 その中で大統領は、まず一連の疑惑について「国民を深く失望させ、心配を掛けている」として改めておわびを表明した。そして、崔順実(チェスンシル)氏との関係については、長い付き合いで「警戒心が緩んだのは事実」と認めながらも「特定個人が利権をむさぼり、違法行為まで犯していた」として自らの関与を否定している。本当に大統領自身、崔順実氏の過ちの詳細を知らなかったのかもしれない。

 朴大統領は続けて、「検察は真実を明らかにし、それを基に厳正な司法処理が行われなければならない」「今回の事件の真相と責任を究明する上で、最大限協力する。必要なら、検察の捜査に誠実に応じる覚悟だ。特別検察官の捜査まで受け入れる」として検察の事情聴取など捜査に応じる考えを表明した。そして、「誰であれ、捜査を通じて過ちが判明すれば、相応の責任を取らねばならず、私もすべての責任を負う覚悟がある」と述べた。

 しかし、国内では経済不振に直面し、その立て直しは急務である。国外では北朝鮮が核実験やミサイルの開発を繰り返し、これらの大量破壊兵器の実戦配備が近づいている。こうしたことから、「国政は一時も中断してはならず」、「真相究明と責任追及は検察にゆだね、政府は本来の機能を一日も早く回復しなければならない」と訴え、辞任の考えはないことを強調した。

 朴大統領は談話に先立ち2日、黄教安首相ら3人を更迭する内閣改造に踏みきり、新首相に革新系の金秉準国民大学教授を指名した。同教授は盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で青瓦台の政策室長や副首相兼教育人的資源相を歴任した人物である。朴大統領は新首相に大幅な権限を与え、内政を事実上任せる意向とも伝えられた。

 朴大統領が革新系の人物を首相に指名し、権限の委譲の意向をにじませることで野党に歩み寄る姿勢を示したのは、「挙国中立(一致)内閣」を要求する野党に先手を打ち、人事権を手放すことを避け、引き続き国政を担う意思を示したものであろう。

 しかし、共に民主党、国民の党、正義党の3野党はこの人事を「一方的な国政運営」だとして一斉に反発し、首相任命の前提条件となる国会の人事聴聞会をボイコットする方針を決定した。

 談話では大統領は首相任命の際に伝えられた、権限を大幅に移譲する意向に言及せず、まして与野党で合意した首相の受け入れにも同意していない。こうした姿勢に対し、韓国の主要紙は批判的に報じている。大統領の権限を手放し、国政への関与を薄めるよう求める論調が目立っている。

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武藤正敏 [元・在韓国特命全権大使]

むとう・まさとし 1948年生まれ、1972年横浜国立大学経済学部卒業。同年、外務省入省。在ホノルル総領事(2002年)、在クウェート特命全権大使(07年)を経て10年より在大韓民国特命全権大使。12年に退任。著書に「日韓対立の真相」、「韓国の大誤算」(いずれも悟空出版)。


元駐韓大使・武藤正敏の「韓国ウォッチ」

冷え込んだままの日韓関係。だが両国の国民は、互いの実像をよく知らないまま、悪感情を募らせているのが実態だ。今後どのような関係を築くにせよ、重要なのは冷静で客観的な視点である。韓国をよく知る筆者が、外交から政治、経済、社会まで、その内側を考察する。

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