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氷河期の洞窟に残った謎の記号は現代に何を伝えていたか

『最古の文字なのか?  氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く』

内藤 順 [HONZ]
【第24回】 2016年11月18日
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著者のジェネビーブ ボン・ペッツィンガー氏による「TED」での講演は約230万回再生を誇る
「TED:Why are these 32 symbols found in ancient caves all over europe」より

 本書は『最古の文字なのか?』がメインタイトルで、サブタイトルが「氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く」。一瞬、メインとサブが逆なのではないかと思ったほどであるが、これこそがまさに「名は体を表す」であった。

岩絵の脇に描かれた
小さな幾何学記号の模様を分析

『最古の文字なのか?  氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く』
ジェネビーブ ボン・ペッツィンガー著、櫻井祐子翻訳
文藝春秋
300ページ
1650円(税別)

 洞窟に入って壁画を見れば、誰だって巨大な牛やウマの絵に目が向くことだろう。たしかに絵のような芸術品は、太古の人々の生活を具体的なイメージとして捉えることができ、見ているだけで時間を忘れさせてくれる。

 しかし、本書の著者ジェネビーブ・ボン・ペッツィンガーの着眼はひと味違った。岩絵の脇に描かれた小さな幾何学記号の模様、そこへ注目したのだ。多くの人にとって見落とされがちな幾何学記号の集積が、やがて壮大なミステリーのように雄弁に語りかけてくることになるから、コミュニケーションとは奥が深い。

 塵が積もれば山となるように、無意味も積もれば意味をなす。著者は、ヨーロッパ中の氷河期の遺跡を這いずり回り、150を超えるフランスの岩絵遺跡で過去に収集されたデータとも照らし合わせながら、この時代に存在した抽象模様が限られた種類にとどまること、そして同じシンボルが時空を超えて繰り返し描かれていることを見つけ出した。

 背景にあるのは、ここ20年くらいにおける、新たな遺跡の発見、そして年代測定法の進化である。これまでの古人類学においては、約5万年前から4万年前の間に「創造の爆発」と呼ばれる現代的精神の芽生えが起こったとされてきた。しかし10万年も前の遺跡から副葬品や火打石が発見され、現代人に匹敵する認知能力はそれ以前から保持されていた可能性が高まってきたのである。

 この事実だけでも、ヨーロッパの氷河期時代の捉え方が大きく変わってくる。岩壁画の慣習化された時期が、ヨーロッパに定住して以降の話ではなく、ヨーロッパへ到達した直後に生み出されたか、あるいはスキルを持った状態でヨーロッパに到達したかのいずれかであることを意味するからだ。

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内藤 順 [HONZ]

HONZ編集長。1975年2月4日生まれ、茨城県水戸市出身。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。広告会社・営業職勤務。好きなジャンルは、サイエンスもの、歴史もの、変なもの。好きな本屋は、丸善(丸の内)、東京堂書店(神田)。はまるツボは対立する二つの概念のせめぎ合い、常識の問い直し、描かれる対象と視点に掛け算のあるもの。

 


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