中国消費市場への売り込みが熱い。特に1人当たりGDPが1万ドルを超えた、所得の高い上海市場に向けての、日本企業の猛攻撃が始まっている。しかし現実は甘くはない。むしろ指摘されるのが日本企業の上海市場に対する認識の甘さだ。「日本で売れるから中国で売れる、だからそれで一儲けできる」といった迷信に踊らされる日本企業が足元をすくわれている。

「なぜか、日本人は上海で
日本酒が売れると勘違いしている」

2010年に上海で行われた食品見本市
Photo by Konatsu Himeda

 2010年11月に上海で行われた食品見本市を訪れた。日本勢が多数のブースを構えるなか、とりわけ目立ったのが日本酒のピーアールだった。彼らの期待感は小さいものではない。なぜなら昨今は大陸の中国人も日本料理を受け入れるようになったからだ。

 上海のショッピング街に出店する日本料理の大手チェーン。フロアを見渡せば、ほとんどが中国人客だ。テーブルでは慣れない手つきで日本酒を手酌する30代とおぼしきグループがちらほら。これまで日本酒の飲み手といえば香港人や台湾人が主だったが、ここにきて地元の消費者が関心を示すようになった。

「上海の日本酒市場は広がっている」という見方もある一方で、「いや、上海市場はかなり厳しい」と率直に漏らす酒造メーカーもある。

 筆者は上海の食品商社を取材した。中国人経営者のAさんは「なぜか、日本人は上海で日本酒が売れると勘違いしている」と話す。中国の一般消費者で日本酒をたしなむのはごく少数に限られているため、この食品商社はもっぱら業務用として日本料理店に納めている。

 上海の日本料理店ではここ数年「久保田」「八海山」など、日本から輸入した日本酒のラインナップが増えた。だが、現実には、日本料理店に限定されたマーケットで、日本から輸入した日本酒の販路を広げるのは難しいようだ。

「ワインならば一般家庭にも歓迎され、中華料理にもよく合う。それに対して日本酒は普及の範囲が非常に狭い。しかも徳利にお猪口と特殊な飲み方が求められる。まだまだ人気とは言えないし、そう簡単には売れないのです」(Aさん)