長らく住宅ローンの主役だった「固定金利型」ローンが、メガバンクから消えようとしている。

 背景にあるのは、元来、固定型の補完的なローンであった「変動金利型」の急増。5年前まで新規の住宅ローン全体に占める割合は2~3割程度だった変動型だが、いまやメガバンク3行とも9割を超えている。なかには96%に達するメガバンクもあり、固定型の割合は1割を切っているのだ。

 変動金利は、各行の短期プライムレート(短プラ)を基準に決まる。この短プラは日本銀行が決定する政策金利に連動するが、2008年後半、この政策金利が2度にわたって、0.2%ずつ引き下げられた。この結果、メガバンクの変動金利は一気に1%を切る水準まで下がり、小幅な低下にとどまった固定型と比べた割安感から、変動型を選ぶ割合が逆転した。

 その後も、法人向けの貸し出しが伸び悩み、増え続ける預金の運用先に困ったメガバンクは、安定した需要の見込める住宅ローンをめぐり、金利引き下げの過当競争を繰り広げてきた。

 さらに住宅販売業者の営業戦略も拍車をかけた。

 住宅ローンの利用者の多くは、販売業者を経由してローンを組む。販売業者は当面の返済額を低く設定でき、より売りやすい変動型で販売する傾向が強い。利用者も目先の金利の低さから変動型に飛びついた格好だ。

 つまり、変動型への偏重は、住宅を売りたい販売業者、運用先を確保したいメガバンク、目先の返済額を低く抑えたい利用者──という三者の思惑が一致した帰結でもあった。

 ただ、固定型が将来の金利上昇リスクを避ける「保険」とするならば、変動型は金利リスクを取る一種の「博打」ともいえる。

 メガバンクの住宅ローン担当者も「5年先を読むことすら難しいのに、9割超が変動型を選ぶ現状はあまりにも歪だ」と認める。

 実際、1990年代初めには、変動金利が8%前後にまで上昇していた局面もある。

 変動金利の上昇リスクに対しては、「変動金利が上昇する前に、固定金利型のローンに切り替えればいい」との楽観的な考えがあるのも確かだ。

 しかし、そもそも変動金利は政策金利に連動し、固定金利は、政策金利の先行きを織り込んだ長期金利に連動する。住宅ローンに詳しいファイナンシャルプランナーの深田晶恵氏は「長期金利は政策金利に先行して上昇するため、現実的には難しい」と警鐘を鳴らす。

 米格付け会社が折しも、1月に決定した日本国債の格下げは、長期金利の上昇(国債価格の下落)を引き起こしかねず、歪な“変動傾斜”がリスクとして顕在化してきた。

 もちろん、金利の先安感は依然強く、すぐに上昇する危険性は低いが、いったん国債が暴落すれば、真っ先に被害を受けるのは、変動型の利用者であることだけは間違いない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)

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