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ブロックチェーン・レボリューション
【第7回】 2016年12月16日
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ドン・タプスコット,アレックス・タプスコット

ブロックチェーンから見えてくる未来[後篇]
『ブロックチェーン・レボリューション』第1章(6)

仮想通貨ビットコインを支える「ブロックチェーン」が、どのように世界を変えるかを解説した決定版『ブロックチェーン・レボリューション』。その出版にあわせ、同書の第1章「信頼のプロトコル」の一部を公開するシリーズの第6回。
著者は「ブロックチェーンから見えてくる未来」として、象徴的な10の変化を予測する。前回に続き、そのうちの5つを見ていこう。

クリエイターが作品の対価を受けとれる

 これまでのインターネットは、クリエイターにやさしい場所ではなかった。ミュージシャンと契約しているレコード会社はインターネット時代にうまく適応できず、古いビジネスモデルにしがみついて徐々にその力を失いつつある。

 1999年に登場した音楽ファイル共有サービス「ナップスター」は、古くさい音楽業界の体質を浮き彫りにした。著作権で保護された音楽がシェアされたことが問題になり、既存のレコード業界がナップスター社とその創業者、さらに1万8000人のユーザーに対して訴訟を起こしたのだ。そのせいでナップスター社は2001年に倒産した。

 ナップスターのドキュメンタリー映画を監督したアレックス・ウィンターは、ガーディアン紙のインタビューで次のように語っている。

 「大きな文化的変化を前にして、白か黒かという考え方はどうかと思うんです。ナップスターの場合、『自分で買ったんだから何でもシェアしていい』という立場と『購入したファイルのひとつでもシェアしたら有罪だ』という立場があったわけですが、大半はその中間のグレーゾーンに位置するわけですよね」

 ユーザーを訴えるよりも、ユーザーと共にサービスをつくるというビジネスモデルのほうが長続きするに決まっている。ナップスターの訴訟騒ぎは、既存の音楽業界がいかに非効率で時代遅れで、ミュージシャンにやさしくない業界であるかを世間に見せつける結果となった。

 それから今にいたるまで、状況はほとんど変わっていない。でもブロックチェーンの登場で、少しずつ新たな動きが見えてきた。イモージェン・ヒープやゾーイ・キーティングといった先進的なミュージシャンが、業界に新たな風を吹きこもうとしている。

 これから音楽や創作に関わる業界は大きな変化を迎え、クリエイターは作品の対価を十分に受けとれるようになるはずだ。

会社の形態が進化する

 グローバルなP2Pプラットフォームは、会社という概念を問い直すことにもなりそうだ。ブロックチェーンはイノベーションや価値の共有を推進し、富の集中を改善して、多数の人に豊かさが行きわたることを可能にする。

 会社の収益や規模が小さくなるという意味ではない。莫大な価値を生みだし、業界に大きな影響力を持つ会社も出てくるだろう。だがその形態は20世紀的なヒエラルキー組織ではなく、フラットなネットワークに近い形になるはずだ。そうなれば、より多くの人に富が分配(再分配ではなく)されやすくなる。

 ブロックチェーンを利用したスマートコントラクトの普及によって、これまでの組織とはまったく違うオープンネットワーク型企業が主流になるかもしれない。さらにはインテリジェントなソフトウェアがみずからリソース配分やマネジメントを実行する分散自律型企業(DAE、Distributed Autonomous Enterprises)の可能性も見えてくる。

 従来のビジネスモデルは大きな変革を迫られるだろう。

モノが自分で動くようになる

 あらゆるものがネットワークに接続され、周囲の変化やできごとを検出してシームレスに協調する世界。技術者やSF作家は昔からそんな未来を思い描いてきた。

 ブロックチェーン技術を使えば、インターネットに接続されたモノ同士が連携し、価値(エネルギー、時間、お金など)を交換し、需要と供給力にもとづく柔軟なサプライチェーンを築くことが可能になる。メタ情報を付与されたスマートデバイスがその情報をもとにお互いを認識し、状況に応じて適切な行動をとってくれるのだ。

 モノが自分で動くようになれば、人は大きな恩恵を受けられる。オーストラリアの奥地で農場の電力を必要としている人も、余った電力をシェアしたい個人も、みんなが今より豊かになれる。

小さな起業がどんどん生まれる

 豊かな経済と社会には、起業家精神が不可欠だ。

 インターネットは起業家に新たな可能性をもたらし、既存の慣習に縛られない小回りのきく事業を可能にするはずだった。ところが、一部の大成功したドットコム企業がもてはやされる陰には、不都合な数字が見え隠れする。新たに創業された企業の数は、多くの先進国でこの30年間減少しつづけているのだ。

 一方の途上国では、インターネットを活用して起業しようと思っても、政府や役人が相変わらず大きな障壁となっている。起業に必要な資金や決済システムへのアクセスも、一部の人にしか行きわたっていない。

 才能ある起業家だけの問題ではない。ごく普通の人が日々の生活費を稼ごうと思っても、銀行口座がなければ支払いを受けられないし、役所での面倒な手続きや決まりごとが大きな障壁になっている。

 複雑な問題だが、ブロックチェーンはそこに突破口を開く助けになると思う。自分の住んでいる場所に縛られず、世界中の人と直接契約することが可能になるからだ。グローバルな経済にアクセスできれば、資金調達、取引先、提携、投資などのあらゆるチャンスがぐんと広がる。どんなに小さな事業でも、ブロックチェーンなら十分に成り立つ。

政治が人びとのものになる

 経済だけでなく、政治も大きく変化する。

 ブロックチェーン技術で政治を変革する試みはすでに始まっている。政治のコスト削減とパフォーマンス向上が望めるだけでなく、民主主義のあり方そのものが変わっていく可能性もある。政府は今よりずっとオープンになり、利益団体の影響力は衰え、より誠実で透明度の高い政治が可能になるはずだ。

 ブロックチェーン技術がいかに政治を改善し、選挙をはじめとする政治への参加プロセスを変えていくかを追って紹介したい。社会サービスはより公平に行きわたり、厄介な問題がいくつも解決され、政治家は公約をきちんと守るようになるだろう。

未来型プラットフォームの光と闇

 いいことばかりのように書いてきたけれど、もちろん乗り越えるべき障壁はある。ブロックチェーンが登場してまだ日が浅いこともあり、技術が成熟していないし、使いやすいアプリケーションも出揃っていない。

 それだけでなく、ブロックチェーンのしくみ自体に対する批判も出ている。

 取引を承認するためにマシンパワーを消費するというしくみは、エネルギーの浪費ではないのか。この先ブロックチェーンの数がふくれあがり、1日に数十億件の取引が発生するようになったらどうなるのか。ブロックチェーンの計算に参加するインセンティブは十分に保てるのか。ブロックチェーンは人びとの仕事を奪うのではないか。

 ただし、これらは技術的な問題というより、リーダーシップとガバナンスで解決できる問題だ。新たなパラダイムを率いるリーダーたちが声を上げ、経済や社会にイノベーションの波を起こし、ブロックチェーンが正しく発展できるように導いていく必要がある。この点についても、あとでじっくり論じるつもりだ。

※この連載では第1章の途中までを紹介しました。続きは『ブロックチェーン・レボリューション』にてお楽しみください。

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ドン・タプスコット 

タプスコット・グループCEO。ロットマン・スクール・オブ・マネジメント非常勤教授。イノベーション、メディア、グローバリゼーションに関する世界的な権威であり、テクノロジーが企業と社会にもたらす経済的・社会的な影響を世に問う第一人者として知られる。世界的ベストセラーとなった『ウィキノミクス』(日経BP社)や英エコノミスト誌ベストビジネス書に選出された『デジタルネイティブが世界を変える』(翔泳社)をはじめ、多数の著書がある。

 

アレックス・タプスコット 

投資銀行での実務を経て、現在ブロックチェーン関連ビジネスへのアドバイザリーを行なうノースウェスト・パッセージ・ベンチャーズ社創業者兼CEO。ブロックチェーン時代を率いる若手オピニオンリーダーとして、タイム誌やハーバード・ビジネス・レビュー誌をはじめ多数の有名メディアに寄稿している。

 


ブロックチェーン・レボリューション

世界経済に最も大きなインパクトを与える技術と言われるブロックチェーン。その決定版的な解説書であり、クレイトン・クリステンセン、マーク・アンドリーセン、スティーブ・ウォズニアック、伊藤穰一といった著名人が激賞する『ブロックチェーン・レボリューション』。本連載ではその一部を公開する。

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