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嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え
【第38回】 2016年12月28日
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岸見一郎 [哲学者],岡本裕一朗

哲学ブームは『嫌われる勇気』から始まっていた?
なぜ今“哲学”が求められるのか 〜後編〜

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フジテレビ系(2017年1月12日(木)22時スタート)で連続ドラマ化が決定し、シリーズ累計が190万部に達した大ベストセラー『嫌われる勇気』とその続編『幸せになる勇気』。「心理学」や「自己啓発」に分類されてきたこの本のルーツは、実は著者の岸見一郎氏が専門とする哲学にありました。
一方、発売3カ月で4万部を達成した『いま世界の哲学者が考えていること』。著者の岡本裕一朗氏が、ポストモダン以後における21世紀の哲学の最新の動向を見事に分析した同書の人気は、いま多くの人が哲学に関心を抱いていることを象徴していると言えます。
そこで両書の著者お二人に、なぜ今これほどまでに“哲学”が求められているのかを語り合っていただき、現代社会とその向かう先を紐解いていただきます。後編では日本における哲学研究者と「哲学者」の違いから、学問としての「哲学」のあり方まで議論は多岐に渡ります。

“哲学者”と“哲学研究者”は何が違うのか?

岡本裕一朗(以下、岡本) 哲学の学び方、あるいは哲学における教育のあり方についても語ってみたいのですが、そもそも哲学を学ぶ際には、過去の哲学者の学説を研究するということが伝統的に行われてきました。哲学の理論には何千年という蓄積があって、自分でオリジナルの考えを唱えたところで「それはプラトンが言っていた」「誰それの説の域を出ない」なんて話になるわけです。そんな自分勝手な論文を書く前に、巨人の肩に乗っているんだから、まずはそれを学びなさい、という教育システムは存在していると思うんです。

岸見一郎(以下、岸見) そういう部分がたしかにありますね。昔、梅原猛先生が田中美知太郎先生の演習に参加されていました。田中先生はギリシア哲学の第一人者で、原典を読むことを何より大事にされていて、ギリシア語を一字一句おろそかにしないで読むことを学生に求めていました。でも、それには飽き足らなかった梅原猛先生は、誰の学説もまったく引用しない論文を書いて、心境小説だと酷評されてしまった。そこで、梅原先生はギリシア哲学の研究室から飛び出ていったという話があります。
 哲学の理論を一から学ぶというのは学者、研究者として最初に踏まなければならない大事なステップではありますが、やはり若い人は悩みますね。「こんなことをしていていいのだろうか」「もっと大事なことがあるのではないか」という思いは、たしかに私も持っていました。

岡本裕一朗(おかもと ゆういちろう)
1954年、福岡に生まれる。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。現在は玉川大学文学部教授。西洋の近現代思想を専門とするが、興味関心は幅広く、領域横断的な研究をしている。 著書に『フランス現代思想史―構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問』(ちくま新書)、『ネオ・プラグマティズムとは何か―ポスト分析哲学の新展開』『ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち』『ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会』などがある

岡本 ある意味、これは「哲学者か、哲学研究者か」という話にも通じる部分があるのではないでしょうか?

岸見 そういう意味では、私は自分のことを哲学者だと思っています。1999年に『アドラー心理学入門』という本を書いたのですが、そのとき表紙に肩書きを入れて欲しいと出版社の人に言われました。当時は奈良女子大学の非常勤講師でしたが、別の肩書きが欲しいと言われて、「哲学者はどうですか?」と聞いたら、「それがいい」ってことになったのです。
 もっとも、その経緯を知った息子は「梅原猛だったらいいけど、君が哲学者を名乗ったら、ただのプータローだと証明しているようなものだ」と言ってましたけど(笑)

岡本 親子で、すごい会話をされるんですね(笑)

岸見 はい。息子は政治哲学が専門で、家に帰ってくるとあいさつ抜きで議論になります。妻も過去に哲学を学んでいたので、三人揃ったらえらいことになります(笑)

岡本 そうでしょうね(笑)

岸見 私としては「哲・学者」という学者ではなく、「知を愛する者」(愛知者)という意味で哲学者を名乗っています。もちろん、私は哲学の研究者でもあるわけですが、やはり愛知者としての哲学者、フィロソファーです。「愛知者」と対比されるのは「知者」ということになりますが、これは昔の言葉で言うソフィスト。知識を授ける人であり、職業教師という言い方もできます。現代に置き換えれば、人に何かを教え、それを習得させて、修了証なんかを出すような人がソフィストだと思うのですが、私自身のイメージとはやはりかけ離れています。私がイメージしているのは、さまざまな問題について一緒に考えるけれど、すぐに答えは出ない。そこではプラトンの対話篇のような方法、考え方が実践されていて、話を聞いて、一緒に考えを深めていく人。それが私がイメージする哲学者です。
 だから、大学に籍があるとか、研究をしているとか、そういうことは関係ありません。『嫌われる勇気』を読んで、人生を真剣に悩む人はすべて哲学者なのだと私は捉えています。

岡本 哲学者か、哲学研究者かという議論で言えば、「自分では定義しない」というのが私の基本スタンスですね。周りの人が私のことを哲学者だと言えば、そうだろうし、研究者だと言えば、それを受け入れる。もちろん、どちらが良いとか、悪いということもありません。
 当然のことながら、研究者というのはとても大事な存在です。ある学説を厳密に解釈してくれることで、私たちがハッとするような気づきを与えられることも多々あります。
 ただ同時に、その人が「目の前にある課題」「現実の問題」について、きちんと分析し、自分なりの理論を構築して論じることができるかと言えば、必ずしもそうではありません。研究者ではなく、哲学者たるには、やはりそれに即した訓練が必要なのだろうと思います。

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岸見一郎[哲学者]

きしみ・いちろう/1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの“青年”のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。

岡本裕一朗[玉川大学文学部教授]

1954年、福岡に生まれる。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。九州大学文学部助手を経て、現在は玉川大学文学部教授。西洋の近現代思想を専門とするが、興味関心は幅広く、領域横断的な研究をしている。
著書に、『フランス現代思想史―構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問』『12歳からの現代思想』(以上、ちくま新書)、『モノ・サピエンス―物質化・単一化していく人類』(光文社新書)、『ネオ・プラグマティズムとは何か―ポスト分析哲学の新展開』『ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち』『ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会』『異議あり! 生命・環境倫理学』(以上、ナカニシヤ出版)、共著に『ヘーゲル入門』(河出書房新社)、『差異のエチカ』(ナカニシヤ出版)、共訳にトマス・ネーゲル『哲学ってどんなこと?―とっても短い哲学入門』(昭和堂)などがある。


嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え

フロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨頭とされながら、日本では無名に近いアルフレッド・アドラー。彼はトラウマの存在を否定したうえで、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言し、対人関係を改善する具体策を示してくれます。まさに村社会的空気のなかで対人関係に悩む日本人にこそ必要な思想と言えるでしょう。本連載では、アドラーの教えのポイントを逐次解説することでわかりやすく伝えます。

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