最近、“安売りバブル”という言葉をよく耳にする。不況のなか、衣料品などを中心に値下げ競争が激化し、多くの消費者が安売り商品に押し寄せる様子が、資産価格の高騰、つまり“資産バブル”に群がる投資家を彷彿させることから、こうした呼び名が付けられたのだろう。
商品の値段が下がることは、消費者にとってはありがたいことだ。しかしその一方、当該商品を作って売る側からすれば、収益が圧迫されることは間違いない。
一般的な物価水準の下落(デフレ)は、経済全体にとって必ずしも好ましい現象ではない。デフレ状況下では、待っていれば価格は下がるはずだから、消費者が消費を先送りする傾向が強くなるからだ。今回は、この「安売りバブル」について考えてみたい。
まず、安売りバブルによって経済のサイクルが被る影響を、わかり易く説明しよう。
モノやサービスの価格が下がることは、生産や販売を行なう企業にとって、売り上げの減少につながる。売り上げの減少は、多くの場合、収益の悪化につながることが考えられる。
企業の収益が圧迫されると、当然そこで働く従業員の給与は下落するだろう。最悪の場合は、リストラで職を失うことも考えられる。そうなると、GDPの約6割を占める消費は盛り上がらなくなる。結果として、景気が後退する可能性が高いというわけだ。
このような状況で問題となるのは、当面わが国の経済がデフレから脱却できる道筋が見えないことだ。現在、わが国の経済は約7%、約35兆円程度のデフレギャップ(供給が需要を上回る金額)を抱えている。
わが国経済全体を見ても、足元でデフレ圧力が増しており、日銀によると今後3年ほどはデフレが続くと予測されている。今後もデフレが続き、“安売りバブル”の膨張が続くようだと、わが国の企業、特に中小企業が一段と厳しい状況に追い込まれることは避けられない。
つまり、“安売りバブル”がわが国の経済に致命的な痛手を与える問題にもなりかねないのである。