これから企業は三つの感覚が必要です。第1のポイントで求められるのは世界の現実に適合した「法律感覚」。第2のポイントは、技術や知識における世界の現状を理解できる「技術感覚/知識感覚」。この双方を備えるだけでもひと苦労かもしれませんが、これだけではコストセンター的知財戦略でしかありません。プロフィットにつながる知財戦略を実現するうえで、日本企業に今、最も不足しているのが第3のポイント。それはすなわち「ビジネス感覚」です。

 インテルやアップルコンピュータなど、知財戦略で成功したといわれる海外企業のほとんどは、このビジネス感覚に優れています。価値ある「知」に、しっかりと鍵をかけ、知られたくない「知」をきちんとブラックボックス化しつつも、「使わせて得をする」というビジネスの構築にたけていました。「どんなビジネスモデルにすれば、多くの企業やコンシューマーに使ってもらえるか」。これを考えていく感覚こそが、知財をプロフィット化します。

ビジネス感覚を備えたプロフェッショナル
をパートナーに選ぶべき

 企業がビジネス感覚をもって知財を戦略的に活用していくための重要な課題が、「どんなプロフェッショナルとパートナーになるのか」ということです。

 法律感覚や技術感覚に優れたプロフェッショナルならば、これまでにもいました。たとえば優秀な弁護士や弁理士を擁する特許事務所や、特定分野に精通した研究機関などです。

 では、こうしたプロフェッショナルのすべてがビジネス感覚をも備えているかというと、残念ながら「すべて」とはいきません。

 シリコンバレーがITのみならずバイオでもイノベーションの苗床となっているのは、そこには、ベンチャービジネスの知財を守る外部の専門家チームがあるからです。今後は日本でもこうした取り組みを増やしていかなければならないでしょう。

経営陣が率先して知財と向き合い、
意識変革すること

 ある国内自動車メーカーでは最近、知財部門に財務畑の人間を登用しました。これは「知財をビジネスに生かす」という意識の一つの表れだと私は評価しています。

 単に「コストをかけて守る」だけの知財部門ならば、財務の専門家は必要ありません。「コストとプロフィットのバランス」を突き詰めようとするからこそ、こうした人材登用を始めたのだといえます。

 一方、外部のプロフェッショナルのほうでも、ビジネス感覚を併せ持つ集団へと成長しようとしている特許事務所が登場したり、コンサルティング会社などがビジネスモデル化も含めた知財戦略へのソリューション提供を始めたりもしています。

 遅れはとりましたが、日本でも確かな動きは始まっているのです。だからこそ、あらためて言いたいのです。「まず経営陣自身が知財の今を理解し、意識変革せよ」と。すべてはここから始まるのです。