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良い質問をする技術
【第8回】 2017年1月18日
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粟津恭一郎

自分で決めないと人は動かない。
だから質問が重要になる
篠田真貴子×粟津恭一郎(1)

企業の経営者にさまざまな「質問」を投げかけ、気づきを与える。それを専門的におこなうエグゼクティブ・コーチングを10年以上続けてきた、粟津恭一郎さん。そんな粟津さんが、これまでに磨いてきた「質問」に関する知見・技術をすべて詰め込んだ『「良い質問」をする技術』を発刊しました。
同書にはさまざまな質問の例が示されていますが、その1つが人気サイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する株式会社ほぼ日のCFO、篠田真貴子さんのエピソードです。国内大手銀行、外資系企業、そして“ほぼ日”とさまざまな業種、規模の会社に勤めてきた篠田さんが感じた、企業風土による質問の違いとは。(構成:崎谷実穂 撮影:疋田千里)

長銀の質問、マッキンゼーの質問

粟津 まずはお礼をさせてください。『「良い質問」をする技術』では、篠田さんの「これまでの働いてきた職場で、よく聞かれる質問がそれぞれまったく違っていた」というエピソードを使わせていただきました。担当の編集者さんからお聞きした話だったのですが、「質問が会社の文化と風土をつくる」というテーマに本当にぴったりで。

篠田いえいえ。「使っていただけてとても光栄です!」と、編集者さんからのご連絡にすぐにお返事したんですよ。

篠田真貴子氏(しのだ・まきこ) 1968年生まれ、東京都出身。小学1年から4年までを米国で過ごす。91年慶応義塾大学経済学部卒、日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行。96年から99年にかけて、ペンシルベニア大学ウォートン校で経営学修士(MBA)、米ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係論の修士学位を取得。98年米コンサルティング大手、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、2002年スイス製薬大手のノバルティスファーマに転職。2003年第1子出産。07年、所属事業部が食品世界最大手のネスレ(スイス)に買収されたことにより、ネスレニュートリションに移籍、第2子出産。08年東京糸井重里事務所(現ほぼ日)に入社、09年取締役最高財務責任者(CFO)に。


粟津 改めて、篠田さんの経歴を簡単に聞かせていただいてもいいでしょうか?

篠田 はい。新卒で入社したのが、長銀(日本長期信用銀行)でした。長銀を4年で辞めてアメリカに留学し、帰ってきてから戦略コンサルティングファームのマッキンゼーに。それから、製薬会社のノバルティスファーマに転職し、自分がいた部署がネスレに買収されたので、ネスレへ。その後ほぼ日のオフィスに遊びに行く機会があり、そこから「お手伝い」の期間を経ていろいろ考えた結果、ネスレを辞めて正式にほぼ日に入社しました。

粟津 今日の対談のテーマも「質問」なので、改めて詳しくお聞きしたいんですが、銀行時代に社内でよくされていた質問とは、どのようなものだったのでしょうか。

篠田 私が勤務していた当時、長銀はカテゴリーでは2番で、圧倒的な1番が興銀(日本興業銀行)だったんです。だから、長銀の社内では常に興銀を意識した質問がされていました。何か判断するときも「興銀はどうしてる?」ということが当たり前に問われましたし、業績も事業展開も常に興銀を意識していました。それがね、まだ会社になにも貢献してない新入社員の頃から、とても嫌で(笑)。

粟津 比較で考え続けるのはつらいですよね(笑)。

篠田 長く続かなかったのは、それも遠い要因だったのかなと思っています。

粟津 長く働いていると、その考え方が当たり前になってしまうのかもしれませんね。マッキンゼーでの質問はいかがでしたか?

篠田 マッキンゼーはまたとても特殊な組織なんです。「イシューはなにか」「どんなバリューがあるのか」といった本質的なことを常に問われます。それが繰り返えされると、普段から「イシューはなにか」、つまり「そもそも考えるべき目的は何か」と考えるようになるんですよね。ご著書のなかで、「質問の内在化」ということを書かれていますが、これが「内在化」ということですよね?

粟津 はい、まさに。僕は、質問は他のどんな言葉よりも人の心の中に留まりやすいと考えているんです。

篠田 わかります。マッキンゼーにいるあいだに、「イシューはなにか」という問いが当たり前になって、その後の職場で聞かれなくなってから喪失感すら感じました(笑)。でも、聞かれなくなってもまさに「内在化」することによって、自分で自分に問うようになったんです。今でもこの問いは自分の中にありますね。

粟津 まさに質問によって企業の思想がインストールされたんですね。ちなみに、「イシューはなにか」といった問いかけは、家庭でもされますか?お子さんや旦那さんに向けて。

篠田 あははは。どうしても、対話の構造としてそうなっているときはありますね。さすがに子どもに向けて直接「イシューはなんなの?」とは聞きませんが、夫にはときどき「それって、そもそも何がしたいの?」と聞いてしまいます(笑)。

粟津恭一郎(あわづ・きょういちろう) 株式会社コーチ・エィ 取締役 中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授 国際コーチ連盟(ICF) プロフェッショナル認定コーチ 一般財団法人生涯学習開発財団 認定マスターコーチ 滋賀県大津市出身。ソニー株式会社にて人事、経営戦略等を担当。イギリス及びドイツに駐在。2004年に株式会社コーチ・エィ入社。主に大企業経営者、次期経営者を対象としたエグゼクティブコーチとして活躍。 エグゼクティブコーチとしての活動時間、クライアント数は国内有数の実績を誇る。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。

子どもに機嫌よく宿題をさせるための質問とは

粟津 お子さんは今おいくつですか?

篠田 中学1年と小学3年です。

粟津『「良い質問」をする技術』には、母親が子どもに投げかける質問も取り上げているのですが、篠田さんはお子さんへの問いかけはどうされていますか?

篠田 ああー、2章のところですね。
「母親が子どもに投げかける『宿題はやったの?』『準備はしたの?』という質問。これは単にやったか、やってないか、という確認だけでなく、聞かれた側にとっては『宿題をまだやっていないのではないか』『準備をまだしていないのではないか』という疑いのメッセージを含んでいるように伝わります」
という箇所。
 これ、すっごくよくわかります。「宿題やったの?」と聞くと、子どもは不機嫌になりますよね。うちではもうちょっと自主的にやるような感じをもたせたいな、と思っています。そうすれば、いずれ聞かなくても、自分からやってくれるようになるんじゃないかと。だから、「◯◯ちゃんの宿題、ママはいつ丸付けすればいいのかな?」と聞くようにしてるんです。

粟津 会社っぽいですが、それはお子さんの自主性を高める良い質問ですね。上司が「フィードバックの時間はいつに設定する?」と聞くみたいな(笑)。

篠田 たしかに(笑)。仕事の進捗管理を円滑にする、マネジメントの視点が入っているかも。そうすると娘も、「夕飯前はやりたくないから、夕飯の後にやろうと思う。だから、8時くらいかな」などの返事が返ってくる。それで、「わかりました」と。でもまあ、子ども なので夕飯の後もだらだらゲームとかして、やらないんですよ。そうすると、「あれ?ママ8時に丸付けしようと思ってたんだけど……◯◯ちゃん、どう?」 と聞く。

粟津 「進捗はいかがですか?」ということですね(笑)。

篠田 そうすると、自分が8時と言ったからには、それを守らなければという気持ちが働いて「今ちょうどやろうと思ってたの!」と焦ってやり始めます(笑)。

粟津 いいですね。僕も職業柄、自分の子どもにいろいろ質問してみています。ちょうど今朝、質問でちょっとうまくいったことがあったんですよ。僕は毎朝上の子を幼稚園、下の子を保育園に連れて行っているんです。今日は下の子が、ゴムの髪飾りを「これつけて」って持ってきたんですよね。でもすぐに出発しないと間に合わなくて、つけてあげられなさそうだった。しかも、そもそも僕は娘の髪をしばるのがうまくできないんです。だから、「これ、誰にやってもらったら可愛くできると思う?」と聞きました。

篠田 なるほど!

粟津 そうしたら、「保育園の先生!」と言うので、「じゃあ先生につけてもらおうか!」と言って、ぐずることもなく機嫌よく保育園に向かいました。で、連絡帳で「今朝こういうやり取りをしたので、つけてあげてください」と申し送りしておいたんです。

篠田 宿題も、娘さんの髪飾りも、自分で「◯◯する」と言うことが大事なんでしょうね。

粟津 けっきょく人って、自分で「こうしよう」と思ったことしかやらないと思うんですよ。

篠田 本当にそうですよね。だから、子どもにも自分で「こうしたい」と言うように接しているんです。もし、100%やりたいことでなかったとしても、「自分で決めた」と思える状況に持っていくことが大事。そうすると、うまくいかなかったときもまわりのせいにしなくて済みます。自分が決めたことだと思えば納得できる。

頼まれ仕事も「こちらからお願いしたい」に変換する

粟津 過去に、そういう経験はありましたか?

篠田 上の子を妊娠中だったときに、マタニティビクスをやってみたいと思ったんですよね。でもかかりつけの産婦人科では「運動は控えてください」と言われ、しぶしぶ我慢しました。それが当時の日本の主流だったんです。でも後で調べたら、アメリカの妊娠・育児情報のウェブサイトに、アメリカの産婦人科学会の公式見解として、妊婦の運動が奨励されていたんですよ。それで、「ああ、きっと私アメリカにいたら、お医者さんに運動しろって言われてたんだろうな」と思いました。そうしたら、「マタニティビクスやりたい!」と思ってた気持ちがすーっとおさまったんです。

粟津 へえ!むしろやりたい気持ちが高まって、「こういう情報がありましたよ」とお医者さんに直談判した、という展開になるのかと思いました。気持ちがおさまったんですね。

篠田 「どっちもありなんだ」となったら、お医者さんに言われたからでなく、「マタニティビクスをやる」「やらない」の選択肢から自分で「やらない」ほうを決めた、と思えたんです。もっといえば、選択肢が平等に示された瞬間、「すごく主張してまでやりたいわけではないな」と気づいた(笑)。

粟津 そういう、ご自身を「自分で決める」状況に持っていくようになったのは、いつ頃からですか?

篠田 おもしろい質問ですね。いつからだろう……もともとそういう育てられ方をしてきたのだと思います。私、中学生の頃から門限がなかったんです。何時に帰ってきてもいいけれど、自分で責任を取れる範囲で行動しなさい、と教えられてきました。

粟津 そういう家庭環境だったんですね。ご家庭で身についた「自分で決める」という考えかたは、今の仕事でも活かされていますか?

篠田 これ、じつは、ほぼ日という会社の考えかたとも呼応しているんです。糸井重里は、「イニシアティブを持ち続ける」という言い方をします。一番、仕事の受け方に表れているかな。うちの会社では、何か仕事を外部から頼まれたときに、1日置いて「むしろこちらからお願いしたい!」と思える仕事だけを受けなさい、という教えがあります。それは、そういう仕事は最後まで本気でできるから。仕事って、頼んでいただけたことそれ自体がうれしいと、パッと引き受けてしまったりすることってありますよね。

粟津 わかります。

篠田 そうすると、本当に自分がそれをやりたかったのか、わからなくなってしまうんです。そうして、進めていくうちにいろいろな障壁が現れたとき、本気で突っ込めない。ベストをつくすことができない。それは、相手にご迷惑をかけることにもなる。やっぱり、「本当にやりたい」と思ったことを、「やると自分で決める」ことが大事なんです。
「ほぼ日とこういうことがしたい」「糸井さんにこういうことをしてほしい」という依頼もよくいただきますが、「それをやるならこの企画はどうですか」など内容を変えて、こちらから新しい提案としてお返しすることもしばしばあります。

粟津 受けた仕事でも、自分で選んだという状況に変換していく。それ、私達のエグゼクティブ・コーチングの場面でもあるんですよ。たとえば、エグゼクティブコーチをつけている社長さんが、自分の部下である役員たちにもコーチをつけたいと考えたとします。そうすると、その役員に私達がコーチングとはどういうものかを説明しに行く。その時点では役員の方は、「社長がやれと言ったから来たんだろう」と思っている。でも、そこでその役員に、「あなたは、どうしてエグゼクティブ・コーチングをつけたいんですか?」と聞くんです。

篠田 それは面食らうでしょうね。

粟津 そう、はじめは「え!俺がやりたいんじゃないよ、社長が言ったから……」となります(笑)。でも、我々はあくまで「“あなた”がやりたいのでない限り、私達はこの仕事を受けません」というスタンスで接する。そして、「“あなた”はなぜ、エグゼクティブ・コーチングを受けたいか?」「コーチングによって何が得られると期待しているか?」と続けて聞いていく。そうすると、ほとんどの人は、はじめて「自分ごと」として考え始めます。そして自分の考えを言葉にしていく過程で考えを深め、自分の意志で「コーチングを受けよう」と決めていくんです。

(次回へ続く)

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    粟津恭一郎(あわづ・きょういちろう) 

    株式会社コーチ・エィ 取締役、中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授、国際コーチ連盟(ICF) プロフェッショナル認定コーチ、一般財団法人生涯学習開発財団 認定マスターコーチ

    滋賀県大津市出身。ソニー株式会社にて人事、経営戦略等を担当。イギリス及びドイツに駐在。2004年に株式会社コーチ・エィ入社。主に大企業経営者、次期経営者を対象としたエグゼクティブコーチとして活躍。エグゼクティブコーチとしての活動時間、クライアント数は国内有数の実績を誇る。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。

     


    良い質問をする技術

    最高峰のエグゼクティブコーチとして日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきた著者が、本質的なテクニックをまとめた『良い質問をする技術』。本連載では、そのエッセンスを抜粋し紹介していきます。

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