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良い質問をする技術
【第4回】 2016年10月12日
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粟津恭一郎

なぜ、私たちは
「質問」されるのが好きなのか?

日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきたトップレベルのエグゼクティブコーチが10年来の探求と実践の成果をまとめた書籍、『良い質問をする技術』が発売されました。雑談・商談・会議・打合せ・取材で役立ち、上司・部下・取引先・家族・友人に感謝される「良い質問」とはどのようなものなのか?そのエッセンスを紹介する連載の第4回です。

「良い質問」で得られる「ひらめき」と自発的行動

 「質問による気づき」は、それを与えられた人に、大きな喜びの感情を呼び起こします。

 脳科学者の茂木健一郎さんが、その著書の中で、「アハ・エクスペリエンス」「アハ体験」と名付けている感覚があります。大きな感動を覚えたとき、英語では「A-ha!」と叫ぶことから、「アハ体験」と名付けられたそうです。

 アハ体験とは、たとえば、算数の授業で「ピタゴラスの定理」を生まれてはじめて習った小学生が覚えるような、驚きを伴なう感動のことを言います。実際に画用紙を切っていろいろな形の3角形を作ってみて、そのすべての内角の和が180度であることを確かめてみたときに、「本当だ!」とびっくりする……まったく同じではなくても、似たような記憶がある方は、多いのではないでしょうか。

 大人になってからでも、1人でなにか物事を考え続けた結果、「あ、そういうことか!」とひらめいたり、腑に落ちたりする経験というのは、とても心地が良いものです。考えた末での気づきによって、「明日からこれをやってみよう」といった前向きな気持ちや、わくわくする感覚、さらには自信をも得ることができます。

 同様の心地良さは、「良い質問」をされて、自分で新しい気づきを得たときにも感じることができます。

 質問はあくまできっかけに過ぎません。気づきを生み出したのは、自分自身です。自分で考えたことだからこそ、その気づきには深い納得と理解があります。自分で思いついたことだからこそ、その気づきに基づく行動は、自分にとって「心からやりたいこと」になるのです。

 ところが、それとまったく同じ「気づき」でも、他人から教えられた場合、感動はありません。「確かに良いアイデアだな」と感じるかもしれませんが、それは他人の発想で、「自分で得た気づき」ではないからです。

 だからそのアイデアを実行しても、なんとなく「やらされ感」がつきまとい、真剣に取り組む気にはなれません。

 同じアイデアでも、それが自分でひらめいたものか、他の人からもらったものかで、その後の行動の「質」と「量」は大きく変わるのです。

 人というのは皆、できれば他人から言われて行動を起こすのではなく、自ら気づいて行動を起こしたいと思っています。そうした自発的行動を促すのに最適なのが、「良い質問」をすることなのです。

なぜ、質問は強く人をとらえるのか?

 そもそも人は、質問されるのが大好きです。それは、人の脳が、質問されて自発的に考えることを機能的に好むからです。

 アメリカの心理学者・臨床心理士のロバート・マウラー氏は、その著書、『脳が教える! 1つの習慣』(講談社)のなかで、「小さな質問の持つ力」について多くのページを割いて解説し、こんな実験の例を挙げています。

 あなたの会社のほとんどの社員は、車で通勤している。そこで明日、同僚に「駐車場で、きみの車のとなりに止めてあった車が何色だったか覚えている?」と尋ねてみる。同僚はおそらくあなたを変な目で見て、覚えていないと答えるだろう。翌日もその翌日も、同じ質問を繰り返す。
 4日目か5日目になると、同僚にはもう選択の余地がなくなる──朝、車を駐車場に入れる際、変なヤツ(=あなた)が変な質問をしてくることを脳が思い出してしまい、しかたなくその答えを短期間だけ記憶しておこうとする。

 マウラー氏は、この質問の効果を、「脳の海馬の働きによるもの」と説明しています。海馬は脳の中で「記憶」を司る重要な器官で、どんな情報を記憶し、いつ取り出すかを決定するところです。海馬は、繰り返し質問されることによって、その情報を「重要」であると認識し、自然に注意を向けるように促すのです。

 この実験で、もし、「きみの車のとなりに止めてあった車は何色だったかな?」という質問ではなく、「きみの車のとなりに止めてあった車の色を答えなさい!」と繰り返し高圧的に命令されたとしたら、どうでしょうか。きっと同僚は、「なんでそんなこと覚えなきゃならないんだ!」と反発を覚え、質問に答えるどころか、関係が悪くなってしまうでしょう。

 質問は命令よりもずっと生産的で、アイデアや解決策を生み出すのに役立つのです。

 マウラー氏も、「あなたの脳をプログラムするもっとも強力な手段の1つが、『小さな質問をする』というテクニックだ」「質問は脳を目覚めさせ、喜ばせる。脳は、たとえばかばかしい質問だろうと奇妙な質問だろうと、質問を受け入れ、じっくり考えるのが好きなのだ」と結論づけます。

 子どもはみんな、なぞなぞ遊びや質問が大好きです。幼い子どもはなにかを見れば「これなーに?」と大人に質問を繰り返し、また親からも質問されることで、言葉を学習していきます。

 大人になってからも同じです。仕事で疲れて家に帰ってきて、テレビを点けたら、たまたまクイズ番組が放映されていた。そんなとき、見る気がなかったのに問題の答えが気になって、出演者とともに考えながら、気づけば最後まで見てしまった。そんな経験がある人は多いと思います。

 小説も映画もテレビドラマも、世の中の多くの人を惹きつける作品は、ほぼ例外なく「ミステリー」の要素を含んでいます。人間は、「問い」(クエスチョン)や「謎」(ミステリー)に本能的に惹かれます。「いったいどうしてそうなるんだろう?」と考え始めると、その答えを自分なりに納得して見つけないと、収まりがつかないのです。

「パンドラの箱」の話からもわかるように、好奇心=謎を解き明かしたいという欲求は、すべての国の、すべての時代の人間に共通するものです。それは人間の「本能」とも呼べるものでしょう。

 質問が人をとらえる理由も、そうした本能に根差しているのです。
 

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粟津恭一郎(あわづ・きょういちろう) 

株式会社コーチ・エィ 取締役、中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授、国際コーチ連盟(ICF) プロフェッショナル認定コーチ、一般財団法人生涯学習開発財団 認定マスターコーチ

滋賀県大津市出身。ソニー株式会社にて人事、経営戦略等を担当。イギリス及びドイツに駐在。2004年に株式会社コーチ・エィ入社。主に大企業経営者、次期経営者を対象としたエグゼクティブコーチとして活躍。エグゼクティブコーチとしての活動時間、クライアント数は国内有数の実績を誇る。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。

 


良い質問をする技術

最高峰のエグゼクティブコーチとして日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきた著者が、本質的なテクニックをまとめた『良い質問をする技術』。本連載では、そのエッセンスを抜粋し紹介していきます。

「良い質問をする技術」

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