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良い質問をする技術
【第5回】 2016年10月17日
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粟津恭一郎

知っておきたい
「質問」の3つの機能

日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきたトップレベルのエグゼクティブコーチが10年来の探求と実践の成果をまとめた書籍、『良い質問をする技術』が発売されました。雑談・商談・会議・打合せ・取材で役立ち、上司・部下・取引先・家族・友人に感謝される「良い質問」とはどのようなものなのか?そのエッセンスを紹介する連載の第5回です。

質問は人の評価を大きく左右する

 エグゼクティブコーチとして社長にお会いすると、取材に来た新聞や雑誌の記者に対して、ひどく怒っておられることがあります。

 社長の怒りのポイントはだいたい共通しており、「くだらないインタビューで1時間もとられて、時間のムダだった」「あんな失礼な質問に答えるのは嫌だよな」といったように、自分の時間を記者からの質問で浪費させられたと、腹を立てているのです。

 記事が出たあとで、変なことを書かれたと腹を立てていることもありますが、取材そのものが不愉快であることも多いようです。

 事前に下調べをしておけば、改めて聞くまでもないことを質問してくる。業界について少しでも知識があれば、決して質問するはずのない、的外れなことばかりを聞いてくる。答えた内容をきちんと理解せずに次の質問をしてくる。そんな記者が、特に評判が悪いようです。

 一方で、まったく反対の評価を受ける人もいます。
「いやあ、このあいだ私のところに取材に来た◯◯新聞の◯◯さんという記者は、実に素晴らしい人でしたよ。うちの会社のことも詳しいし、話していてすごく勉強になったんですよ」
 と、絶賛されるのを聞いたことがあります。

 その記者のなにが素晴らしかったのか。詳しく聞いてみると、とにかく質問が面白くて、社長自身が話しているあいだに多くの気づきが得られたということでした。

 このように、エグゼクティブは「質問に関する感度」が高い傾向がありますが、誰であっても、「質問によって人を評価してしまう」ことに、異論をはさむ方はいないでしょう。

 次にお話しするように、原則として、質問は誰でも、誰にでもできるものです。だからこそ、質問力を高めることは、人間関係において大きな意味を持つのです。

質問は人と人との関係を対等にする

 「質問」というコミュニケーション手段の特徴として、「質問する人」と「質問される人」が、良い意味でフラットに、対等な関係になりやすい、ということがあります。

 これは本記事の編集者の方から聞いた話ですが、「取材が上手なライターは、何万人も社員がいるような大企業の社長さんでも、1時間か2時間話しているうちに、すっかり打ち解けてしまう」そうです。

 初めのうちは、社長さんも「仕事の一環」として、「社長として」受け答えをしているのですが、ライターがここぞというタイミングで「良い質問」をすると、ガラッと雰囲気が変わると言います。

 ライターが本心から質問を重ねていくうちに、どんどん社長が胸襟を開き、自分から喜んで積極的に話していく様子が、傍から見ているとよくわかるのだそうです。これは、もちろんライターの方の人柄もあるでしょうが、質問の「人と人との関係を対等にする」力も大きいはずです。

 他のコミュニケーション、たとえば「指示・命令」は、ほぼ確実に、上位者が自分よりも下位の人に対して下すものです。つまり、固定された「上下関係」が明確にあることがコミュニケーションの前提になっています。

 それに対して、質問する人とされる人は、すぐに立場をスイッチして入れ替わることができます。しかも、すでに述べたように、質問には「思わずそのことについて考えてしまう」という強い力がある。

 上司の指示・命令にわかりにくいところがあれば、多くの人が質問をするはずです。そして、上司はその質問に答え、場合によってはさらに上司から質問を投げかけてくるでしょう。

質問には、(上下関係が必ずしもないわけではありませんが)上下関係を変化させる力があるのです。

 だからこそ、「良い質問」は「上司と部下」「親と子」「教師と生徒」のような固定的な立場を超えて、どんな相手にも「気づき」をもたらすことができるのです。

質問はチーム作りに役立つ

 そのため、目標に向かって士気高く進むチームを作り、仲間同士の結束力を高めるのにも、質問の力は大いに役立ちます。

 たとえば「お客様に世界一のサービスを提供する」ということをモットーにしている高級レストランがあったとします。その店で店長がスタッフに、「君たち、世界一のサービスをしなさい」と言ったとしたら、スタッフは、「世界一のサービスをしなければならない」と身構えてしまうのではないでしょうか。

「世界一のサービスをしなさい」と店長がスタッフに言ったとき、それを言う店長の頭の中には、すでに「世界一のサービスとはなにか?」という問いに対する答えがあるのかもしれません。

 しかし、その「答え」は、スタッフとは共有されていません。「世界一のサービスとはこれだ」と店長から聞かされても、スタッフは「自分の頭で導き出したこと」のように感じることはできないのです。

 でもそうではなくて、ミーティングのときに店長から、「今日、世界一のサービスを提供するために君はなにをする?」「君にとって、世界一のサービスってなんだと思う?」といった問いかけをされたらどうでしょう。

 その質問について、スタッフ同士でお互いに話しあえば、そこで出てきた気づきは全員に共有されます。それを繰り返すうちに、「世界一のレストランのサービスとはなにか?」という問いが、自然にメンバーの胸のうちに芽ばえてくる。その結果、「自分は世界一のサービスを提供するんだ」という意志が、誰からも強制されることなく共有され、浸透していきます。世界一のサービスが、「しなければいけないこと」から「したいこと」に変化するのです。

 組織にとって本当に手に入れたいものがあるのであれば、それは命令よりも、「問い」や「質問」の形で伝えたほうが、手に入りやすいのです。

 人は誰でも、他人から、「こうしなければいけない」「こんなふうにしてください」と一方的に決めつけられたり、命令をされると、反発や嫌悪を覚えます。

 それに対して「質問」は、相手の頭の中にすっと入っていくという素晴らしい特徴があります。チームでの目標の共有や、部下とのコミュニケーションに悩んでいる方には、ぜひこの質問の力を有効活用していただきたいと思います。

 会社などの組織で働いている人にとって、「良い質問」をする技術は、組織でのキャリアアップや、チームの仲間との良好な関係づくりに、大いに役立つものです。そして、質問力を高めることは、今日この場からの、ちょっとした心がけ次第でスタートできるのです。
 

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粟津恭一郎(あわづ・きょういちろう) 

株式会社コーチ・エィ 取締役、中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授、国際コーチ連盟(ICF) プロフェッショナル認定コーチ、一般財団法人生涯学習開発財団 認定マスターコーチ

滋賀県大津市出身。ソニー株式会社にて人事、経営戦略等を担当。イギリス及びドイツに駐在。2004年に株式会社コーチ・エィ入社。主に大企業経営者、次期経営者を対象としたエグゼクティブコーチとして活躍。エグゼクティブコーチとしての活動時間、クライアント数は国内有数の実績を誇る。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。

 


良い質問をする技術

最高峰のエグゼクティブコーチとして日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきた著者が、本質的なテクニックをまとめた『良い質問をする技術』。本連載では、そのエッセンスを抜粋し紹介していきます。

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