アサヒビールが昨年8月に決定した、約272億円投じるオーストラリア(豪州)3位の飲料会社買収計画が頓挫の危機にある。

 豪州競争消費者委員会(ACCC)が、買収計画に反対を表明したからだ。

 アサヒはすでに同国2位企業を買収しており、3位企業を買収することで同国で3割のシェアを握る予定だった。

 これに対し、ACCCは買収が実施された場合、同国飲料市場で首位の米コカ・コーラ系と、アサヒ系で市場の7割を占める寡占状態となり、特に炭酸飲料市場で競争が阻害されると懸念したのだ。

 かねて泉谷直木社長は「(寡占化によって)価格、収益の安定が見込める案件」と今回の買収計画のメリットについて語っていたが、まさにその点を豪州当局に突かれてしまった。

 アサヒは「引き続き、豪州競争消費者委員会から承認を得るべく検討を続けていく」と、買収を断念する考えがないことを表明した。

 しかし、アサヒが買収を実行するためには、たとえば買収先の炭酸飲料事業や有力ブランドを切り離すなどの妥協案を当局と話し合う必要が出てきた。仮に炭酸飲料事業を切り離すようなことがあれば、買収メリットは格段に低下する。いずれにせよ、アサヒは戦略の練り直しを迫られる。

 食品業界では国内市場に比べ寡占で高収益の海外市場を目指す動きが活発化している。

 だが、海外市場では原料価格の上昇がすぐに価格転嫁されるなど、消費者のデメリットも顕在化し、寡占化へ当局の警戒が強まっている。海外企業買収ではアサヒ同様の問題に直面する可能性が高まっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)

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