こばやし きよし/1953年生れ、1976年京都大学工学部土木工学科卒業、78年京大大学院修士課程土木工学専攻修了、84年京大工学博士。87年鳥取大学工学部社会開発システム工学科助教授、91年鳥取大学工学部社会開発システム工学科教授、96年京大大学院工学研究科土木工学専攻教授、2003年~現在、京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻教授、06年~現在、京都大学経営管理大学院・教授、2009年7月~現在、京都大学経営管理大学院経営研究センター教授(兼) 、2010年4月~現在、 経営大学院院長。

 東北・太平洋沖大震災は、東北地方、北関東地方を中心として、かつて例を見ないほどの広域な地域わたって、未曾有の被害をもたらしている。被害者の数は筆舌に尽くしがたく、家計、民間部門、公共部門にわたり膨大な被害が発生している。現時点で、被害の全体像は把握されていないものの、世界銀行は直接被害だけでも25兆円に及ぶという試算結果を発表している。

 直接被害以外にも、交通機関の途絶、生産ラインの休止や都市活動の停止などによる経済損失が発生している。復旧・復興過程が遅延すれば、総生産額の減少、輸出入額の減少、卸売・小売販売額減少、地場産業生産額の減少など、間接被害が長期間にわたって累積する危険性がある。

 さらに、多くの人々は、将来設計が見通せず心理的な被害も被っている。阪神・淡路大震災における直接被害額は約9兆9268億円だとされているが、間接的な被害は直接被害額の3~4倍にも及ぶとされている。阪神・淡路大震災によりわれわれが得た教訓の一つは、震災による被害額を最小限に抑えるために、可能な限り速やかに復旧・復興することが必要であるということである。

 筆者は阪神・淡路大震災の復興過程検証委員(兵庫県)の一人として、神戸復興の過程とともに歩んできた。東北・太平洋沖大震災は、阪神・淡路大震災よりも、広域で大規模な被害をもたらしているが、神戸復興の過程でえられた知見を最大限に生かせたらと願い、寄稿することとした。