単なる成人映画の枠を越え、日本のサブカルチャー史に名を残す作品として語り継がれている「日活ロマンポルノ」。その新作が28年ぶりに公開され、話題を呼んでいる。なぜいま、「新生ロマンポルノ」なのか。変化の波にさらされる映画業界で、“持たざる映画会社”である日活が生き残るための戦略を探った。(ダイヤモンド・オンライン編集部 松野友美)

新作1作目「ジムノペディに乱れる」(行定勲監督)にはロマンポルノを代表する女優:風祭ゆきさんがカメオ出演している(写真提供:日活)

 昨年12月の平日、19時。100年近くの歴史を持つ新宿の映画館・武蔵野館に、映画好きの記者は赴いた。ここでは、日活ロマンポルノの新作『ジムノペディに乱れる』が上映されている。登場人物たちの日常がはかなくも美しい情景描写と共に描かれるなか、10分に1回という高頻度で「濡れ場」が登場する。時には笑えるシーンもあり、どのタイミングで唾を飲んだらいいのか、「初心者」は迷ってしまう。観客の大半は息をひそめて83分の作品に見入っていた。

 後半、主人公の男が植物状態の妻の目の前で看護師と激しいセックスをしたところ、嫉妬深い性格の妻の意識がわずかに戻ったというギャグのようなシーンで、前方の席にいた50代と思しき男性だけが「かはっ!!」と堪え切れずに笑い声を漏らしていた。

 普段は1本1800円だが、この日は映画サービスデーのため1本1000円で観られるということもあり、130超のシートは満席だった。往年のファンと思しき50代、60代男性の1人客もいるが、意外に感じたのは、ロマンポルノとはイメージが結び付かない女性客や若者も多いこと。スーツを着た会社帰りの30代前半らしい女性が1人、20代半ばや40代と見られる女性の2人連れが何組か、そして1人で来たらしい大学生の男性がいた。

映画館に飾られたポスターには出演者のサインが並ぶ。上映前には監督や女優による飛び入りの舞台挨拶が行われるなど、ファンには堪らない仕掛けを感じた

 「土日祝日・サービスデーは一般映画と同じようなお客さんが多く、それ以外の平日は男性率が高いです。女性客は監督や出演者のファンの方という印象です」(新宿武蔵野館スタッフ)

 1970年代に大量に製作され、多くのファンを魅了した日活ロマンポルノは、日本のサブカルチャー史に名を残す存在だ。時代の移ろいの中、製作終了となったのは1988年のこと。それがここにきて、28年ぶりに新作が上映されている。今、なぜロマンポルノなのか。作品としての魅力と、製作会社である日活の戦略を分析してみよう。