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自分の時間を取り戻そう
【第7回】 2017年2月15日
著者・コラム紹介バックナンバー
ちきりん

いま社会で急激に進む
「高生産性シフト」とは
『自分の時間を取り戻そう』第1章より

 発売から3か月で約7万部のベストセラーとなっている『自分の時間を取り戻そう』。「生産性」をテーマとした同書には、個人の働き方の提言に加えてもう1つ、社会派ブロガーの著者ならではの興味深い社会分析があります。今回から3回にわけて、「社会の高生産性シフト」についての解説部分を紹介していきましょう。

忙しすぎる人たちの本質的な問題

『自分の時間を取り戻そう』の序章に登場した4人が共通して抱えている本質的な問題、それは、「生産性が低すぎる」ということです。もしくは「生産性の概念を理解していない」とか「生産性の向上こそが問題の解決に必要と理解できていない」と言ってもいいでしょう。

 4人も、そして「毎日毎日、忙しすぎる!」と感じている人たちも、まず取り組むべき本質的な問題は「生産性を上げること」です。

 ところがなぜかこの「生産性」という言葉は、本来の意味よりはるかに狭く解釈され、その重要性も正しく認識されていません。なかには「自分は工場で働いているわけではないので関係がない」とか、「生産性なんて仕事の話であって、家事や遊びには無関係だ」と考える人もいます。

 でも本来の意味での生産性とは、仕事だけでなく家事から育児、趣味からボランティア、勉強に人付き合いからコミュニケーションに至るまで、生活のあらゆる場面においてその成果を最大化するための鍵となる概念なのです。

 それからもうひとつ、私がこのタイミングで生産性について本を書こう(書かねば!)と考えた重要な理由を挙げておきたいと思います。それは今、社会が急速に「高生産性社会」へとシフトし始めているということです。

 前著『マーケット感覚を身につけよう』の中では、社会の市場化というトレンドを取り上げました。それは経済やビジネスの分野だけでなく、就活から婚活、消費活動から寄付行為に至るまで、生活のあらゆる分野で市場化が進むという話でした。

 今回、本書のトピックとして取り上げたのは、市場化と同じくこれからの社会が向かう方向を端的に示している「社会の高生産性シフト」という潮流です。

 今後、私たちの暮らす社会では、これまでに経験したことがないほど速いスピードで、しかもあらゆる場面でこの高生産性シフトが進みます。それはいったいどういう現象のことなのか、ひとつずつ説明していきましょう。

UberとAirbnbが有効活用した資源

 生産性とは「時間やお金など有限で貴重な資源」と「手に入れたいもの=成果」の比率のことです。後で詳しく書きますが、ここでは「希少資源がどの程度、有効活用されているかという度合い」だと考えてください。

 高生産性社会へのシフトとは、「社会全体が、生産性が高まる方向にどんどん動いていく」という意味です。つまり、これから世の中に存在するあらゆる資源は、今までよりはるかに高いレベルで有効活用されるようになるのです。

 もちろんこの動きは、今に始まった話ではありません。産業革命が起こり、手作業で作っていた商品が機械で作られるようになりました。これは生産性の低い製造方法が、生産性の高い製造方法に置き換えられたという意味で、高生産性シフトです。しかし注目すべきは、そういった高生産性シフトのスピードとその起こる範囲が、ここのところ一層急速になり、かつ拡大し始めているということです。

 一番わかりやすい例は、個人が自分の空き時間に自家用車で乗客を運び、乗車賃を稼ぐ Uber(ウーバー)のようなサービスや、個人が空き部屋や空き家を宿泊場所として貸し出すAirbnb(エアビーアンドビー)といったサービスの拡がりです。

 このふたつのサービスを通して、これまで活用されないまま放置されていた3つの資源が有効活用され、価値に置き換えられ始めました。

 ひとつめの資源は、Uberが有効活用を始めた「自家用車の空き時間」です。一般的に個人が所有する車の稼働率は高くありません。長い時間、駐車場にとめられたままだった個人所有の自家用車がその空き時間に客を乗せ(=乗客に価値を提供して)、有効活用され始めたのです。

 ふたつめはAirbnbが有効活用を促した「空いている部屋や家」です。そして3つ目の資源が、車や部屋を所有する人のヒマな時間です。言わずもがなですが、ヒマな時間のまったくない多忙な人が、 UberドライバーになったりAirbnbのホストになったりはしません。これらのサービスの出現により、ヒマな時間を持つ人の隙間時間も有効活用され始めたのです。

 車の空き時間、家の空きスペース、人生で余っていた時間、という3つの資源が、UberとAirbnbにより有効活用されるようになったーーいうなればUberは、個人所有の自動車とその持ち主の時間の生産性を、Airbnbは個人所有の不動産とその持ち主の時間の生産性を上げることで価値を生み出し、それを換金するというビジネスなのです。

 Uberが進出するというと、どこの都市でもタクシードライバーによる反対運動が起こります。でもなぜ、プロのドライバーである彼らがUberに勝てないのでしょう?

 Uberならクレジット決済で便利だから、ナビで移動ルートが一目瞭然だから、レビューでドライバーの評判がわかるから、などいろいろな理由が挙げられます。でも、もっとも本質的なUberシステムの強みは、タクシーより圧倒的に生産性が高いしくみだという点にあります。

 タクシー業とはいったいどういうビジネスなのか、ちょっと想像してみてください。東京など都市部では、ものすごい数のタクシーが延々と空のまま走っています。あれを見ると、いつもなんという生産性の低いビジネスなのかとため息が出ます。地方でも同じですよね。鉄道の駅ごとに、これまたすごい数のタクシーが何時間も停車したまま客を待っています。こちらも信じがたいほど生産性が低い。

 ところがUberの場合は、ドライバーは自分がヒマになったときだけ近くにいる客を探すので、無駄な時間が発生しません。つまり、今後タクシーシステムからUberシステムへの移行が必然的に起こると考えられる理由は、後者のほうが圧倒的に生産性の高いシステムだからなのです。そしてこれからはあらゆる分野でそういう方向(=生産性が高くなる方向)に社会が変わっていきます。これが、高生産性社会へのシフトという現象なのです。

 同様に、仕事の発注者と仕事を探しているワーカーがネット上でマッチングされるクラウドワーキングも、労働力の生産性を高めるしくみです。夫の転勤について行くため、会社を辞める女性は今でもたくさんいます。これまでは、そういう女性の能力と時間というふたつの希少資源は、まったく活用されていませんでした。

 ところがクラウドワーキングで仕事を受けられるようになると、それらの資源が有効活用され、価値を生めるようになりました。子育て中の女性の隙間時間も同じです。子供が昼寝をしている数時間しか働けない人でも、そのスキルと時間を活用できます。

これからの時代の判断基準

 このように「生産性が上がる」とは、あらゆる資源の活用度合いが高まること、あらゆる資源が、今までより有効に使われ始めることを意味しています。

 もちろん同じことは今までも起こっていました。でもたった1時間ほどの、しかもいつ発生するか事前にはわからない隙間時間や、自分が住んでいる家の空き部屋などという中途半端なものまでが有効活用され始めたのは、つい最近のことです。

 スマホが登場するまで、電車の待ち時間は単なる無駄な時間でした。でも今なら数分の待ち時間の間にでも仕事のメールに返事ができます。これまで生産性を上げるべく有効活用が図られてきたのは、製造用の工作機械や貴重な知的財産権、それに石油などの燃料といった、産業用の物資ばかりでした。それが今や、個人が所有するちょっとした私物や隙間時間の生産性までが、大幅に高められるようになってきたのです。

 社会の高生産性化は不可避であり、もはや後戻りすることはありません。だからなにか新しい技術やビジネスを目にしたときは、それを生産性という判断軸で評価することがとても重要になります。

 今後の社会では生産性の高いものが残り、生産性の低いものが淘汰されていくーーそうだとすれば、勉強する分野や仕事を選ぶ際にもできるだけ生産性の高い分野を選びたいですよね。生産性を大幅に高める新サービスを発見したとき、すぐに「これはスゴイ! 絶対に流行る!」と理解できれば、これからの世の中がどう動いていくのかも見えやすくなります。

 もちろん、自分で事業を起こすなら、そのビジネスがなんの生産性をどれほど高めるのか、事前に考えることで、事業の可能性を判断することもできます。このようにこれからはさまざまな場面において、生産性という基準でモノを見ることが必要になるのです。

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ちきりん

関西出身。バブル期に証券会社に就職。その後、米国での大学院留学、外資系企業勤務を経て2011年から文筆活動に専念。 2005年開設の社会派ブログ「Chikirinの日記」は、日本有数のアクセスと読者数を誇る。 シリーズ累計23万部のベストセラー『自分のアタマで考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』(ダイヤモンド社)、『「自分メディア」はこう作る! 』(文藝春秋)など著書多数。

 


自分の時間を取り戻そう

多忙で余裕のない4人の物語からわかる「忙しさの本質」とは?  そして今、世界中で進みつつある「大きな変化」とは?
2つの視点から明らかになる1つの重要な概念と方法論を解説し、大きな話題となっている『自分の時間を取り戻そう』。
本連載はその魅力を紹介するものです。
 

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