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金利と経済 高まるリスクと残された処方箋
【第1回】 2017年2月17日
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翁邦雄 [おきな・くにお]

長期金利抑え込みか、円安抑制か?
トランプ登場で迫られる究極の選択

トランプに通貨安誘導を批判されたことで、そっとしておきたかった円安が、対米関係の焦点のひとつになってしまった。日銀がとるべき道とは?

トランプ・安倍会談は大方の予想を覆し、平穏に終わったが……

 日本銀行が2016年9月に導入したイールドカーブ・コントロールは、円安進展をひそかに期待した枠組みだった。日銀が金利を固定している一方で米国が段階的に利上げすれば、内外金利差の拡大で徐々に円安が進み、物価を押し上げる。

 ところが、日本の金融政策を取り巻く状況は、トランプの登場で大きく変わった。トランプノミクス期待で米国金利が急騰し円安が急激に進行する一方、大統領当選後もトランプが日本や中国の通貨安誘導を批判し続けたからだ。そっとしておきたい円安が、対米関係の焦点のひとつになってしまった。

 むろん、日本は通貨安誘導を否定している。実際、為替市場には介入していない。

 ただし、円安の急速な進行は2012年11月、当時野党だった自民党・安倍総裁による大胆な円安誘導発言が出発点だった。安倍政権の発足後、日銀はアベノミクスの「第一の矢」として異次元緩和で支援し、円安はアベノミクスの最大の成果とされてきた。現状では、日銀は「独立な中央銀行として、物価安定を目的に金融政策を運営している」という建前を主張し続けるしかない。

 この建前に照らすと、2%のインフレ目標からほど遠い現状では、現在の長短金利水準を変える理屈は出てこない。しかし、米国金利が今後上がっていけば、長期金利には上昇圧力が働く。そのとき、0%程度の長期金利は維持できるだろうか。

 実は、長期金利操作は外為市場の固定相場維持に近い。固定された相場を市場が適正だと考えていれば固定制はうまく機能しているようにみえる。だが、そこに疑念が生じると、市場は不安定化し始める。

 長期国債市場は外為市場と比べて市場が相対的に小さいので、日銀が無制限に長期国債を買う覚悟を示せば、原理的には長期国債金利を抑え込める。しかし、日銀は急激な量的拡大をしたくないのが本音、ということも市場に見透かされている。金利と量の2つの要素のなかで日銀のオペレーション(公開市場操作)方針は揺れており、市場との対話は必ずしもうまくいっていない。

 今後、日銀が腹を括って力づくで長期金利を抑え込むと円安が進む。米国が円安を容認しても、それにより輸入物価が急激に上昇すると消費が停滞しかねない。日銀は、これを金融政策の目的ではなく副作用、と整理するだろう。財政規律の弛緩にせよ、自然利子率の低下にせよ、バランスシートの毀損にせよ、日銀は金融政策の副作用の議論は門前払いして、インフレ目標という目的の達成に邁進する姿勢を示してきた。しかし、目的外というラベルを貼れば、副作用を無視してよいはずはない。副作用も、日本経済に大きな影響を与えるからだ。

 インフレ目標さえ達成されても、自然利子率の趨勢的低下という日本経済の根本的な問題が解決されるわけではない。日銀には、虚心坦懐に金利決定の枠組みを見直す柔軟性が必要だ。

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翁 邦雄 [おきな・くにお]

京都大学公共政策大学院教授。1974年日本銀行入行。同調査統計局企画調査課長、同金融研究所長などを歴任。2009年4月より現職。専門は金融論、金融政策論、国際金融論。『期待と投機の経済分析』(東洋経済新報社、1985年、日経図書文化賞受賞)、『ポスト・マネタリズムの金融政策』(日本経済新聞出版社、2011年)、『日本銀行』(ちくま新書、2013年)、『経済の大転換と日本銀行』(岩波書店、2015年、石橋湛山賞受賞)など著書多数。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学Ph.D.(Economics)取得。


金利と経済 高まるリスクと残された処方箋

黒田日銀発足から4年弱の間に、量的・質的金融緩和政策は、マイナス金利政策を経て、イールドカーブ・コントロールへ到達しました。これらの政策の中身がいったいどのようなもので、日本経済にどのような効果と副作用を及ぼすのか、「金利」を軸に解きほぐしていきます。

「金利と経済 高まるリスクと残された処方箋」

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