ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
山田厚史の「世界かわら版」

東芝が沈んだ原発の泥沼は産業政策の失敗が生んだ

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
【第129回】 2017年2月16日
著者・コラム紹介バックナンバー
Photo:つのだよしお/アフロ

 決算がまともにできない会社になった。粉飾体質は米国子会社にも浸透していた。儲け頭の中核事業を守れない。会社存続のためには何でも売る。残るのは休眠原発を抱える危ない会社。

 日本を代表した名門企業・東芝の今の姿である。米国で原発建設を担う孫会社で生じた損失が7125億円だと明らかされた。損失の押し付け合いで東芝がつかまされたババである。記者会見で「ウエスティングハウスの買収は正しい選択だったか」と問われた綱川智社長は「数字を見ると、正しいとは言いにくい」と小さな声で答えた。

 原発ビジネスを世界で展開する、とアメリカに打って出た東芝は、丸裸にされた。東芝だけの責任ではない。「原発ルネッサンス」なる構想を描いたのは誰か。東芝・日立・三菱の原子力3社を幻想の世界に誘い込んだ経済産業省の責任は重い。

改めたはずの粉飾体質が
米国子会社に潜んでいた

 「更なる調査が必要との結論に昨日の午後至りました」

 ペーパーを読みながら四半期報告書を発表できない言い訳をする佐藤良二監査委員長に、詰めかけた報道陣からため息が漏れた。米国子会社・ウエスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(WEC)の決算処理に不正があるとの内部通報があったという。調査の過程で経営幹部に上層部から不当な圧力があったことも発覚した。

 「内部統制の無効化」。会見でこの言葉が頻繁に語られた。監査委員長は「内部統制の無効化の影響が決算に波及する恐れがないとは言えない」という。内部統制が効かない、つまり経営が滅茶苦茶になっていて、不正な決算が行われた疑いがある、ということだ。

 責任ある決算ができないのは東芝では珍しいことではない。2015年4月に「東芝問題」が火を噴いたきっかけも決算発表の延期だった。

 「チャレンジ!」を連発して数字を歪めていたのは原発事業から成り上がった佐々木則夫社長。粉飾が明るみに出て東芝は姿勢を改めたはずではなかったのか。だが米国の原子力事業で粉飾体質が続いていた。

 関係者の処分が発表された。注目は東芝の執行役常務で原子力部門を統括する社内カンパニーの社長であるダニー・ロデリック氏の解任だ。同氏は米国の原子力産業を渡り歩き、東芝が買収したWECを足掛かりに米国事業を取り仕切っていた。東芝の原子力事業は志賀会長が総責任者だが、現場を仕切るロデリック氏が実権を持ち、志賀会長も口出しできない、などと言われていた。

訴訟相手を買収する奇策
隠れ損失は見抜けなかったか

 7000億円の損失が噴出したストーン・アンド・ウエブスター(S&W)社の買収もロデリック主導で進んだ。買収に至る経緯は前回の『東芝が米原発産業の「ババを引いた」理由』に書いたので省略するが、東芝の悲劇は現場の暴走に手を付けられなかったことだ。

 S&Wに潜む7000億円もの損害に、東芝が気づいたのは買収後だった、という。公式発表では、昨年12月中旬という。信じがたい話だ。

 3・11福島事故をきっかけに米国では安全対策が強化され、上乗せ基準や厳重な検査で工期は伸び、資材費も膨張した。現場ではみんな知っていることである。

 東芝はS&Wを買収する時、親会社のシカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)社の財務諸表を調べたが、S&Wに巨額な損失が隠れていることは分からなかった、という。

 「騙されたのではないか」。会見で問われた畠澤執行役常務は「その件については、私どもから言える立場ではない」と言葉を濁した。口が裂けても「騙されました」とは言えないだろう。「騙された」のは東京の本社ではないのか。

 買収したのはロデリック社長が率いるWEC。原発工事の費用負担を巡りS&Wと訴訟合戦になり、トラブルを切り抜ける奇策として訴訟相手のS&Wを買い取った。本社に承認させ、東芝による債務保証まで付けさせた。これが1年後、7000億円の損害として爆発した。東京の支配は米国に及んでいなかった――。

バブル期と同じ構図
カネは出しても口は出せない日本

 この構図はかつて経験した記憶がある。1980年代、日本がバブル経済に酔っていたころだ。

 企業は米国など海外でビルやゴルフ場を買いまくった。ニューヨークのロックフェラーセンターやカリフォルニアのペブルビーチゴルフ場。羨望のまなざしで見ていた優良物件を法外な値段で買い漁った。バブルが崩壊すると二束三文で手放し、カネを米国に撒き散らして撤退した。

 金融の国際化が囃され、海外案件に融資するのが新しい金融と考えた銀行は買収を後押した。

 ゴールドマン・サックスといえば、政権に人材を送り込み、今や世界最強の投資銀行と言われるが、当時は苦境にあった。支えたのが住友銀行だった。株を引き受け資本提携したが経営に関与することはできなかった。カネだけ出す「沈黙の株主」で、ゴールドマンが立ち直ると提携は解消された。

 ウエスティングハウスはゼネラルエレクトリック(GE)と並ぶ米国原子力産業の双璧だ。スリーマイル島の事故から逆風にさらされ、売りに出されてWECを買ったのが東芝だった。

 買収しても経営の実権は握れなかった。一種の治外法権、本社の眼が届かなかい米国事業でとんでもない損失が生じたのである。

 ロデリック氏は本社の常務と原発事業の社内カンパニーの社長を解任された。辞めれば本人は一件落着だが、東芝は火ダルマだ。

稼げる事業を次々売却
選択と集中の逆を行く東芝

 「分社化する半導体部門への出資については柔軟に対処する」

 綱川社長は「柔軟」を何度も繰り返した。半導体は東芝の儲け頭だ。分社化して他社から出資を受け、そのカネで米国事業の損失を埋める算段である。だが虎の子の事業は守りたい。「外部からの出資は20%まで」という一線を引いて半導体事業を死守する構えだった。

 そんな一線にこだわってはいられなくなった。「柔軟に対処」とは、場合によっては100%の身売りもあり、ということである。「いろいろなオファーが来ている」と綱川は言うが、東芝はハイエナに食われる。

 7125億円もの損失が出て、2016年12月末で東芝の純資産は吹っ飛び、1912億円の債務超過となった。このままでは上場廃止では済まない。公共事業の入札に参加できなくなり、銀行融資も困難になる。3月末までに債務超過を埋め、1000億円余の資産を確保しないと、経営に支障が出る。売れる資産はすべて売る。

 売りやすいのは半導体事業だ。経営主導権などと言ってはいられない。それが「柔軟的に対処」である。

 綱川社長は複雑な思いだろう。昨年6月に社長を託された。出身は医療機器部門である。東芝メディカルを世界2位の会社に育てた功労者である。その東芝メディカルを売却し、原子力部門が空けた赤字を埋めるため社長に選ばれたようなものだ。今度は半導体だ。

 東芝は逆走している。企業は得意分野を残し、不採算分野を捨てる、というのが常道ではないのか。医療機器はライバルのキヤノンに売った。今度は日本が誇る東芝の半導体を外資に売る。既に冷蔵庫や洗濯機など白物家電は中国の会社に売った。主流だったテレビ・パソコンも分社化されている。

 残るのは原発がらみの事業である。エレベーターや鉄道など公共事業にからむインフラ事業もあるが、東芝を代表する事業とはいいがたい。エレベーター事業も、売却の候補になっている。

そして原発だけが残ったが
国内での新設は実質不可能に

 結局、東芝は原発を軸とした会社になるしかない。買い手はないが、国内の原子力は収益分野だという。

 東芝製の原発は国内に21基ある。どれも動いていない。しかし、点検や修理・管理で安定した売り上げと利益を確保している、という。費用は電気代に上乗せされるので、電力会社も原発企業も痛痒は感じない。

 東芝の原子力事業は2016年上期で3800億円を稼いでいる。ここにはWECの稼ぎも入っている。内訳は公表されないが、国内事業は安定収益という。

 「原子力ムラ」の支配が貫徹し、電力の安定供給が叫ばれる日本。止まっている原発でもしっかり稼げる。そんな特異な産業風土が原発へのリスク感覚を麻痺させた。原発は儲かると信じてアメリカに踏み込み、食い散らかされた。それが今回の一件だ。

 東芝は原発事業の土木・建設など現場作業から撤退するという。リスクが大きく採算が危ういからだという。

 米国事業の失敗は「WECが米国で4基の原発を受注したことだ」と綱川社長は言う。フランスのアレバが経営破綻に追い込まれたのもフィンランドでの原発工事だった。

 原発を収益事業にするなら、膨らんだ工事コストを電気料金で回収できる価格体系が必要だ。それをすれば原発の電気は飛びぬけて高くなり、商業発電はできなくなる。

 よその先進国は、安全を求める人々の要求が政治を動かし、安全基準が厳しくなり、原発は採算に合わない事業になった。これが世界の潮流だ。

 東芝は「原発の土木・建設」から撤退し、「メンテナンスと廃炉」に軸足を移すという。日立・三菱が身を引くのも時間の問題だろう。

 今回の東芝危機は、日本で原発の新設が事実上不可能になったことを示唆している。

 名門・東芝が、止まった原発に寄生し命脈を保つ姿に、産業政策の失敗が見えるようだ。

(デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員 山田厚史)

関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


山田厚史の「世界かわら版」

元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

「山田厚史の「世界かわら版」」

⇒バックナンバー一覧