繁忙期のニセコの求人を「タイミー」が支援

国際的なスキーリゾートとして知られる北海道のニセコエリア。インバウンド(訪日外国人)の人気が高く冬場には需要が急増する一方で、シーズン中のホテルや飲食業の現場では人手が確保できない状況が続いてきた。その課題が、いま少しずつ解消に向かっている。

支援につながっているのがスポットワーク、いわゆる「スキマバイト」の活用だ。2023年10月、ニセコ町と倶知安町は、スポットワークのマッチングプラットフォーム大手のタイミーと連携協定を締結。両町内の観光業、飲食店や小売業向けにタイミーのサービスを紹介するほか、セミナーの合同開催なども行っている 。

成果も着実に出ており、「当初、『本当に来てくれるのか』と半信半疑でタイミーを利用したホテルさまなどからは『求人を掲載したら、短期間で埋まりびっくりした』といった声も珍しくありません」と紹介するのは、タイミー社長室地方創生Gマネージャーの葛西伸也氏だ。「ワーカー」と呼ばれる働き手は札幌圏などのほか、地元の高齢者、子育て世代などからも集まっているという。

タイミーは、企業が働いてほしい時間や条件を掲載し、働き手はアプリから直接応募できるプラットフォームだ。履歴書や面接は不要で、条件が合えば即マッチングが成立する。サービス開始以来急成長し、現在同サービスを導入する企業は20万社、39万2000店舗、登録ワーカー数は1190万人(25年7月時点)に達している。

タイミーとNP掛け払いで地方創生の「壁」を突破。スキマバイトとキャッシュマネジメントの共創モデルとは何かタイミー
社長室 地方創生Gマネージャー
葛西伸也

「ニセコ町・倶知安町エリアでは、連携協定を締結する2年前と比較し、ワーカーさんの登録者数は約3.6倍、登録事業者の数は約6.4倍に伸びています」と葛西氏は説明する。

「NP掛け払い」が事業成長のボトルネックを解消

ニセコエリアにおける雇用機会の創出に着実に定着しつつあるタイミー。同様の試みは、全国各地の市町村でも展開して成果を生み、地方の人材不足に貢献してきた。だが、このような急成長の裏側で、同社は深刻な「成長痛」を抱えていた。

タイミーの仕組みは、ワーカー(働き手)にはアプリ経由で最短即日に報酬を支払う。一方で、利用企業(アルバイト募集先)からは月末締めなどで利用料を回収する必要があり、そこにはタイムラグが発生する。導入企業は20万社を超え、事業が急成長すればするほど、この「請求・与信・回収」業務が膨大になるのは必然だった。

「このままでは、経理部門の採用を含め、経理関連や決済の業務が事業の成長スピードに追い付かない」――。タイミーが19年にネットプロテクションズ(NP)に声を掛けたのも、まさにこの課題に直面したタイミングだった。社員が決済業務に追われ、本来注力すべきコア業務に集中できないというボトルネックが生まれつつあったのだ。

その解決策が、ネットプロテクションズが提供する「NP掛け払い」だった。

NP掛け払いとは、企業間取引(BtoB)特有の「掛け売り(後払い)」で発生する、煩雑な業務を全て代行するサービスである。そもそも企業間の取引は、個人のようにその場で決済されることは少なく、月末締めの翌月末払いといった後払いが商習慣として根強く残っている。

この掛け売りには「与信審査(この会社と取引して大丈夫かどうかの審査)」「請求書発行」「入金確認」「未入金時の督促・回収」といった煩雑な業務が必ず発生する。NP掛け払いは、これら全てを代行し、さらに未回収リスクさえもネットプロテクションズが保証する仕組みだ。

NP掛け払いは、25年7月には累計取扱高が1兆円を突破するほど、多くの企業から支持されている。ネットプロテクションズBtoBセールスグループ シニア・アカウントエグゼクティブの鈴木美咲氏は、タイミーとの連携について次のように語る。

「タイミーさまからは、自社だけでは回し切れない業務が増えた時期に、弊社へ声を掛けていただきました。社員には『社員にしかできない仕事に集中してもらいたい』という強い社内方針があり、その環境を整える手段としてNP掛け払いを活用されています。請求や回収といった業務をアウトソース化することで、企業がコア業務に専念できる体制を築ける点のほか、自社での新規採用や人員補充が必要な際、業務フローの確立が不要な状態で、拡大スピードを落とさずに事業成長に集中できるようになるというメリットが、長くご利用いただいている理由の一つになっていると考えています」

タイミーとNP掛け払いで地方創生の「壁」を突破。スキマバイトとキャッシュマネジメントの共創モデルとは何かネットプロテクションズ
BtoBセールスグループ シニア・アカウントエグゼクティブ
鈴木美咲

まさに、タイミーのように急成長している企業は、資金繰りを安定させながら本来の事業に集中できるわけだ。一見、与信や回収のリスクがあるように思えるが、「大口融資型ではなく、債権を細かく分けることでリスクを分散しやすく、万一の損失が経営に及ぼす影響は限定的です。さらに実績として、NP掛け払い全体でも未回収率は約0.5%にとどまっています」(鈴木氏)というから驚く。

利用企業にとっては与信審査にかかる手間と時間を大幅に短縮でき 、取引開始までのリードタイムが短くなる。だからこそ、「ベンチャー企業に加え、最近では大手企業の新規事業部門でもNP掛け払いを利用される事例が増えています」(鈴木氏)との説明にも納得がいく。

「コア業務」への集中が、地方の「潜在労働力」を掘り起こす

NP掛け払いによって請求・回収といったノンコア業務を最適化し、コア業務への注力を実現したタイミーは、葛西氏が「コア業務」と呼ぶ、「地域に根差した雇用創出」の仕組みづくりを加速させる。

葛西氏は「NP掛け払いを利用することで、当社自身、コア業務に集中することができ、成長につながっています」と話す。

地方では、人手不足が深刻な課題になっている一方で、働きたくても機会に恵まれない人たちも多い。それに対して葛西氏は「タイミーの仕組みが広がることで、地元の高齢者や子育て世代がご自分の生活リズムに合わせて働けるようになり、短時間でも社会とつながる場が生まれてきました。タイミーの登録者では60代以上の利用者は全体の4.6%、専業主婦・主夫層も7.1%を占めています」と話す。

面接や履歴書なしで応募でき、体調や家庭の都合に合わせて月に1度、週に1度と柔軟に働ける。こうした「潜在労働力」の活用は、地域にとっても新しい雇用のかたちを示している。

タイミーとNP掛け払いで地方創生の「壁」を突破。スキマバイトとキャッシュマネジメントの共創モデルとは何か※ファイナンスサービス:請求書カード払い、支払期限延長サービスなど、資金繰りを支援するサービス
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葛西氏が「コア業務」の中でも重視していることの一つが、観光や飲食業だけでなく、農業や漁業といった1次産業での仕組みづくりだ。人手不足が深刻化する中、「それぞれの地域で違う課題に向き合いながら、タイミーの仕組みをどう生かせるかを探っています」と強調する。

そのため、各地の地方自治体や商工会議所、農業協同組合、漁業協同組合などとも連携し、地域ぐるみでの取り組みを支援してきた。

「北海道から九州まで全国各地に支社を設け、それぞれの土地のニーズを聞きながらきめ細かな営業活動を行っています。作業の現場に足を運んで話を重ねるような地道な取り組みが一番の強みです」(葛西氏)

例えば農業分野では、収穫物ごとにマニュアルを作成し、未経験者でもできるように作業を切り分けるといった工夫もしている 。「この手順でやれば大丈夫」という環境を整備することで、短期間でも現場に入れるようにしているわけだ。

一方、ネットプロテクションズの鈴木氏は「企業活動の本質とは、社会に価値を生み出し、それを継続することにある」と強調する。タイミーとの取り組みは、まさに、その本質に沿った支援になっていると感じているという。

「このスキームの価値は、タイミーの利用企業に対し、私たちがさらにファイナンスサービスを提供して、地方企業の事業継続を支えることです。この部分がタイミーさまと私たちの連携によるシナジーです」

鈴木氏はそう語り、タイミーのように社会課題の解決を事業の中心に据える企業を、金融面から後押ししていくこと。それが、ネットプロテクションズのNP掛け払いが担う次の使命だと締めくくった 。

タイミーとネットプロテクションズの取り組みは、地域の現場に根差しながら、企業の持続的な成長を支えるという点で共通している。両社がタッグを組むことで、働き方と経済の仕組みを同時に変える取り組みが動き始めている。地方の潜在労働力を生かし、企業の生産性を高めるこの連携が、今後どのように広がっていくのか。社会の変化を支える新たなモデルとして、引き続き注目していきたい。

『管理職を全廃しました――社員全員が自走する「ティール型組織」』(ダイヤモンド社)
 

タイミーとNP掛け払いで地方創生の「壁」を突破。スキマバイトとキャッシュマネジメントの共創モデルとは何か

ネットプロテクションズ代表取締役社長の柴田紳氏による著書。同社が掲げる「ティール型組織」や「自律分散的な働き方」の実践を、経営者自身の言葉でまとめた内容だ。ネットプロテクションズは「つぎのアタリマエをつくる」をミッションに掲げているが、今回のタイミーとネットプロテクションズの連携は世の中になかった革新的なものとなり、ミッションを体現するスキームである。こうした理念の下、運営されている組織の実態をまとめた一冊として注目されている。
 

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参考記事:『社員全員が「経営者」。管理職全廃で急成長する上場企業の組織の秘密』 

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