世界の主要メディアのヘッドラインからこのところ東日本大震災に関するニュースが急速に消えつつある。福島原発事故の報道は引き続き多いが、中東や北アフリカ問題あるいは欧米・中国の政治経済情勢に比べて扱いは小さくなってきた。しかし、そんななかでも、震災後の日本の状況と課題をこまめに取材し、海外メディアの紙面上で伝え続けているジャーナリストはいる。4月上旬に東北各県の被災地を回った英エコノミスト誌の前編集長、ビル・エモット氏はその一人だ。『日はまた沈む』『日はまた昇る』などの著書で知られる知日派の目に、震災後の日本はどう映っているのか。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 麻生祐司)

――被災地で何を見て、何を感じたか。

Bill Emmott(ビル・エモット)
1956年8月英国生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジで政治学、哲学、経済学の優等学位を取得。その後英国の週刊紙「The Economist(エコノミスト)」に入社、東京支局長などを経て、1993年から2006年まで編集長を務めた。在任中に、同紙の部数は50万部から100万部に倍増。1990年の著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)は、日本のバブル崩壊を予測し、ベストセラーとなった。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)『アジア三国志 中国・インド・日本の大戦略』(日本経済新聞出版社)など著書多数。現在はフリーの国際ジャーナリストとして活躍中。Photo by Justine Stoddart

 まず東京から宮城県仙台市に入って市の中心部で何日か過ごした後、(同県の)石巻市や女川町など津波で壊滅的な被害にあった場所を実際に訪れた。仙台市中心部で最初に泊まったホテルではガスが止まっていてお湯が出なかったが、そのホテルの周辺は少なくとも見た目のうえでは以前訪れたときと同じだった。それだけに津波で見渡す限り破壊され尽くした地域の惨状を目の当たりにしたときには、そのあまりのコントラストに体が凍りつき、言葉を失った。

 私も2001年9月11日の同時多発テロ直後のニューヨークや、09年に群発地震に襲われたイタリアのアブルッツォ州ラクイラなど、破壊された町をこの目で見た経験はある。だが、人間社会の基盤がかくもことごとく破壊されたありさまをいまだかつて目にしたことはない。今回同行したNGO「セーブ・ザ・チルドレン」のメンバーの一人で、東ティモールなどかつて軍事紛争地に足を踏み入れた経験がある元軍人も「現代の戦争ではもはやこれほどまで広域にわたる破壊はない」と青ざめた表情で語っていた。

 不謹慎な比較かもしれないが、日本のような先進国において、何万人もの人がいつもと変わらぬ生活を送っていたであろう金曜日の午後に一瞬にして自然災害によって命を落とした事実に、私はより大きな恐怖心を抱かざるを得ない。それは、経済発展と富の蓄積によってもたらされたとわれわれ先進国の住民が信じてきた安心や安全の概念を根底から覆すものだからだ。