今、キャリアを積んだビジネパーソンに対する地方企業の需要が増えている。多くの企業が"攻めの経営"を実現する即戦力の人材を求めている。

 例えば、首都圏の大企業でキャリアを積んできたビジネスパーソンが、セカンドキャリアとして、地方の中小企業で、経営に近いポジションでその実力を発揮するケースがある。

 和歌山県というと、すぐに梅やミカンを思い浮かべるが、業種別製造品出荷額では1位が「鉄鋼」で29.7%、以下「石油」24.5%、「機械」11.8%、「化学」11.4%と実は重工業が上位を占めている。

 また、繊維工業をはじめとする高い技術力を誇る「ものづくり企業」が集積している。2018年度には総務省統計局サテライトオフィスも業務を開始する。

 さらに観光で有名な白浜町には、羽田から南紀白浜空港まで飛行機で70分という便利さもあり、首都圏のIT関連企業が続々とサテライトオフィスを設置。高い生産性を上げている。高速道路網は整備が進み、関西国際空港から和歌山市までリムジンバスで約40分とアクセスも良い。

 単なる「田舎暮らし」ではなく“本当の働きがい”を求めるビジネスパーソンにとっても、和歌山県にはその要望に応える企業が数多く存在する。今回は、二つの元気企業を紹介しよう。

丸昌
辻 茂治代表取締役社長

 和歌山県和歌山市に本社を置く丸昌は、病院・施設・ホテル向けのリネン製品を製造・販売する企業として創業。25年前から中国に自社工場を持ち、商社経由ではない安心・安全の品質管理を強みとしている。数年前、その自社工場(中国山東省にある「安丘芳栄縫製有限公司」)の香港人の総経理(社長)が都合で退職、後任となる人材を探していた。

 「採用の条件は、業界での経験値よりも、通訳を介さず現地の従業員とコミュニケーションが取れる、語学に堪能な日本人。人件費が高騰し、政治や環境問題のリスクがある中国での経営は容易ではないが、港湾都市・青島に近い自社工場は、小ロット短納期を強みとしている当社にとっては重要な拠点。その工場の経営計画から数値管理まで任せられる、マネジメントできる人材を探していたのです」と語るのは丸昌・辻茂治社長だ。

安丘芳栄縫製有限公司
田代隆行経理

 その条件と合致したのが、中国で約25年間のビジネス経験を持つ田代隆行氏だった。前の勤務先は日系金属加工会社の現地法人。その法人が他国へ移管したため、中国駐在を前提に新しい職場を探していた。

 昨年7月、和歌山県プロフェッショナル人材戦略拠点を経由して採用が決まった。専門は総務や経理の分野だが、同工場では経営や営業にも参画する。

 「私自身は、福岡県北九州市の出身で和歌山県とは縁がなかったが、面接で辻社長とお会いして、中国の工場を成長させたいという率直な態度と熱意に心を打たれた。私も55歳で、今回の職場がキャリアの集大成だと考えている。現地で培った中国ビジネスの経験やノウハウを最大限に発揮して、丸昌の成長に貢献したいと思った」と、田代氏は力を出し切る覚悟を見せる。

 現在「安丘芳栄縫製有限公司」の現地従業員は約170人、平均年齢は30代前半と若く、社内は活気に満ちている。中国駐在が長いため「中国人のメンタリティーに近くなっている」と語る田代氏だが、辻社長はそのコミュニケーション力に期待。

 文字通り“プロフェッショナル人材”の採用で、自社工場を持つ同社の強みをさらに高める考えだ。


会社概要:
1973年設立。病院・施設・ホテル向けリネン製品の製造販売、福祉用具のレンタル・販売などを行う。2007年に「安丘芳栄縫製有限公司」を中国山東省安丘市に設立