2001年9月11日の同時多発テロの直後、アメリカが日本円にして数十億円という巨額の懸賞金をかけて国際手配したウサマ・ビンラディン容疑者がついに米軍の手によって殺害された。ビンラディンの死は、はたして国際テロ組織アルカイダに壊滅的な打撃を与えるのか。これによってアメリカは、世界はより安全になるのか、それとも指導者を失ったアルカイダが報復攻撃に出るのか。今後のアメリカとイスラム社会との関係、さらには中東民主化運動などへの影響はどうなるのか。テロやイスラム諸国の問題に長く関わってきた、ニューアメリカ財団のスティーブ・クレモンズ氏に聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)
――アメリカは1990年代からクリントンとブッシュの歴代大統領2人がビンラディン容疑者を拘束しようとしたが、できなかった。なぜこれほど長くかかったのか。そしてなぜ今回は成功したのか。
(Steven Clemons)
ワシントンのシンクタンク、ニューアメリカ財団のシニアフェローで米国戦略担当ディレクター。外交・防衛・安全保障が専門で、とくにテロや中東問題に詳しく、ビンラディン殺害後は内外の主要メディアから取材が殺到している。パキスタン、インドネシア、中東などイスラム諸国の政府・情報機関との太いパイプを持つ。ジェフ・ビンガマン連邦上院議員(民主党)の経済・国際問題担当政策顧問、経済戦略研究所(ESI)副所長などを務める。
パキスタンのアボタバード市街地のはずれに建てられたビンラディンの「隠れ家」には、電話やインターネット回線は敷かれていなかった。世界中に潜伏を助けてくれるネットワークを持ち、デジタル社会から完全に遮断された隠れ家に住むビンラディンを見つけ出すのは、アメリカの情報機関を駆使しても容易ではないということだ。
今回うまくいったのは幸運と、地道で熱心な捜査活動を続けてきた結果であろう。十数年前にビンラディンをインタビューした私の同僚は、彼を見つけ出すには情報通信のキャリア(連絡係)を集中的に監視・追跡すべきだと言ったが、まさにその通りだった。キャリアはアルカイダの海外組織に連絡を取ると同時にアルジャジーラにビンラディンのビデオメッセージを送ったりしている。
今回米軍がビンラディンを見つけることができたのは、そのキャリアを集中的に監視・追跡したからである。
――ビンラディン容疑者はパキスタンの軍事関連施設の近くに潜伏していたが、同国政府のなかに協力者がいたのか。
ビンラディンがその隠れ家に潜伏していたことをパキスタン政府の人間が誰一人として知らなかったというのは信じ難い。政府内の誰かがビンラディンの潜伏を助けた可能性はあると思う。
私の個人的な経験から言えば、パキスタン人の多くは非常に正直で誠実だが、一方で“複雑なパズル”のように不可解な人が少なくない。
以前、パキスタンの情報機関ISIの元長官にインタビューしたが、私が「ムシャラフ(当時)大統領は情報機関をきちんとコントロールしていないのか?」と尋ねると、「大統領はそのようなことにあまり関心がないようだ」と不可解な回答をした。