ある日、突然やってくる介護。私たちはどう向き合い、どう乗り切っていくべきなのか。ともに介護を経験されている、作家の落合恵子さんと橋中今日子さんに、介護から学んだこと、これからの介護の課題について語っていただきました。落合さんは、エッセイ(『母に歌う子守唄〜わたしの介護日記』『同 その後』)で母親を介護した7年間をつづり、橋中さんは、認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟の3人を21年間1人で介護した経験をベースに、このたび『がんばらない介護』を上梓しました。 (2017.3.2クレヨンハウスにて 構成・文:立野井一恵)

ドクターに対する不信感

介護の前の「医療」というハードル (c)神ノ川智早 落合恵子(おちあい・けいこ) 1945年栃木県宇都宮生まれ。執筆と並行して、子どもの本の専門店、女性の本の専門店、オーガニックレストラン等を主宰。2016年12月に40周年を迎えた。総合育児雑誌「月刊クーヨン」、オーガニックマガジン「いいね」発行人。また、16年夏にはオーガニックコットンを素材とした洋服「Ms.crayonhouse」をデザインし、販売している。社会構造的に「声が小さい側」に追いやられた「声」をテーマに執筆。最近の主な著書は、『てんつく怒髪』(岩波書店)、『おとなの始末』(集英社新書)、『「わたし」は「わたし」になっていく』(東京新聞出版)、『質問 老いることはいやですか?』(朝日新聞出版)ほか、絵本の翻訳など多数。「さようなら原発1000万人アクション」「戦争をさせない1000人委員会」呼びかけ人。

【落合】母は、大きな病院の医師にパーキンソン病と診断されました。一方、違う病気が隠されているんじゃないかという疑問もあったのです、私の中に。
【橋中】高齢者は病気が重なってきますしね。

【落合】いろいろな本を読んでいくと、もしかしたら、母にはアルツハイマー病も入っているんじゃないか。当てはまる症状がいくつかあった。最初は、総合病院の心療内科の先生に。2番目は介護について大変詳しいことで知られる先生に、セカンドオピニオンを求めました。どちらもパーキンソン病だという診断だったんだけど。
【橋中】でも、納得されなかったんですね。

【落合】もう1度、アルツハイマーを中心に調べていったとき、この先生に診ていただきたいと思う方が、2人いらっしゃったんです。お1人は地方在住の方。もう1人は都内で、ちょうどアフリカから帰国されていた。母の資料をもって訪ねていくと、MRIを見た瞬間、「アルツハイマーが入っています。よくわかりましたね」と。
【橋中】覚悟されていたかもしれませんが、ショックじゃなかったですか。

【落合】むしろホッとしました。1つの病気でも大変だし、アルツハイマーがあるともっと大変だけど、私が感じていたクエスチョンマークにもうひとつの答えが見つかったと。前例だけで人を判断したらいけない。私が社会に向かって異議申し立てをしている理由ですね。それが医療にもあったという。
【橋中】お母様の病気を通して気づかれた。

【落合】サードオピニオンでアルツハイマーとわかった。3番目の先生が手紙を書いてくださって。だけど、当時アルツハイマー病に効果ありとされていた薬は発病して初期から中期に、と。結局、手遅れでしたが。だけど、私の中にあった疑問の1つが、ここで解けたというのは大きかったんです。 
【橋中】ずっと感じていた疑念は、間違いじゃなかったんですね。

【落合】母の病気と介護に関する、第二の誕生日だと思っています。