ソニーの個人情報流出が波紋を広げている。ゲームや映画、音楽などをインターネット配信するシステムにハッカーが侵入し、最大1億人以上の個人情報が流出した恐れがある。ネットワークをデジタル商品の“要”と位置づけながら、ユーザーを守るセキュリティ体制を甘く見た代償は大きい。

ハッカーに狙われた大きな“穴”<br />ソニーのセキュリティ軽視の代償ユーザーの個人情報流出問題について、記者会見で謝罪する平井一夫副社長(写真中央)
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 偶然とはいえ、あまりに最悪のタイミングだった。

 ソニーが不正アクセスによる個人情報流出を発表した4月27日の午後、東京都港区の青山葬儀所で、まさにソニーの黄金時代を牽引した大賀典雄元社長の密葬が行われていた。幹部役員を含め400人以上の近親者が参列し、音楽家でもあった故人の歌声が流れ、ハワード・ストリンガー会長兼CEOも弔辞を読み上げた。

 ソニーがインターネットサービスに異常を確認して調査を始めたのは4月20日のこと。ところがストリンガー氏は、葬儀の場はもちろん、その後も自らの肉声で事件について説明することはなかった。今月5日になって米国のブログ上に謝罪メッセージを掲載したが、そんなお粗末な意思通達の方法には、社内からも失望の声が上がっている。

 また、同社のネットワーク商品を担当する平井一夫副社長らも葬儀前日、新型タブレット端末の発表会で登壇している。この時点で流出事件の詳細を把握していたにもかかわらず、「新しい顧客体験を提案していく」などと笑顔で新製品のアピールのみに努めていた。

 こうした空々しさが、逆にユーザーや関係者の不信感をいっそう増大させた。

 そもそも近年、ソニーがサイバー攻撃の標的になる危険性が高まっていることは、ソニー自身がいちばん熟知していたはずだった。

 同社は看板ゲーム機のプレイステーション3(PS3。2006年発売)をめぐり、海賊版の使用などにつながるとして、ハッキング行為への対決姿勢を強めてきた。今年1月には、PS3のセキュリティの暗号を公開した米国人ハッカー、ジョージ・ホッツ氏(21歳)らを米連邦地裁に提訴。さらに同氏のサイトにアクセスした閲覧者についても身元を突き止めようと情報開示を求めた。

 これに反発し、ネット上の情報の自由を掲げるハッカー集団「アノニマス」がサイバー攻撃を呼びかけていた(表参照)。4月3日にはソニーへのサイバー攻撃を始め、米サンディエゴにあるサーバなどを麻痺状態に陥れようといっせいに攻撃。ソニーはセキュリティ専門会社に依頼して防御するなど、一進一退の攻防が続いた。