グーグルの「ストリートビュー」の大元となる技術や、アマゾンの「キンドル」に使われているEインク技術を生み出すなど、世界有数のコンピュータサイエンス研究所として知られるマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ。その第4代所長に、インターネットの伝道師として世界を舞台に長年活躍してきた起業家の伊藤穣一氏(44歳)が抜擢された。伊藤氏はツイッターに出資しているデジタルガレージの共同創業者兼取締役で、ネットの世界ではつとに有名な人物だ。しかし、学術研究機関を率いた経験もなければ、大学は中退で学士号も持たない。NYタイムズは「unusual choice(異例の選択)」と報じた。そんな注目の人物に、抜擢の経緯から今後の運営方針、イノベーションに対する持論まで、縦横無尽に語ってもらった。
(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
――革新的なデジタル技術の研究開発で知られるマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究所、メディアラボの所長に指名された。受諾の理由は何か。
1966年京都生まれ。幼少期から10代半ばまでカナダ、アメリカで過ごす。タフツ大学でコンピュータ科学、シカゴ大学で物理学を専攻するが、いずれも中退。投資会社デジタルガレージ共同設立、ネオテニー設立。ツイッターなどに投資する。エンジェル投資家としても活動し、さまざまな分野の新興企業の役員を務めている。クリエイティブ・コモンズやモジラ財団など、NPOへの関わりも深い。(c)Mizuka Ito
メディアラボについては、以前から創設者で初代所長を務めたニコラス・ネグロポンティや、同ラボの卒業生らをよく知っていた。義弟もメディアラボの出身だ。
だが、実際に訪れてみて、想像していた“研究所”然とした場所とはずいぶん違っていることに驚いた。研究がそれぞれに面白く、多様性がある。研究者一人ひとりが他とは違うことを研究していて、「何でもあり」という雰囲気だ。先日、研究者らと一人30分ずつの面談をし、これを2日間続けたのだが、非常に知的で刺激的だった。こんなことが毎日できるならば、夢のようだと思った。
――日本の大学や研究所との違いをどう見たか。
日本では、同じ領域の研究者をたくさん集めるのが普通の研究所の考え方だろう。たとえば、人工知能の研究所ならば、この分野で有名な研究者をたくさん集め、その中で研究分野が細分化される。
だが、メディアラボでは、ひとつの領域に研究者が一人しかいない。その分、領域はたくさんあるというイメージだ。いかに少ない人数で研究の多様性を最大化できるかを目指している。同じ領域の研究者ばかりだと、学術的に対話するフレームワークがその中に限定されるが、異なった領域の研究者と話す場合には、そのフレームワークを壊すことが求められる。その違いは大きい。