『週刊ダイヤモンド』4月1日号の第一特集は「美術とおカネ アートの裏側全部見せます。」。およそ80ページにも及ぶ大特集では、お金の流れから作家の生活、歴史から鑑賞術まで全てを網羅した。ここでは、アートが好きな経営者や学者、画家や写真家など特集で取材した“美の達人”たちのインタビューをお届けしたい。今回は蓑 豊・兵庫県立美術館館長だ。(週刊ダイヤモンド委嘱記者 野村聖子)
──米国で30年近く、学芸員として活躍。各美術館で東洋ギャラリーの充実に尽力されました。
私が米国に渡ったころ、日本人の学芸員は私1人でした。当時から米国の美術館は、優れた東洋美術を数多く所蔵していたのですが、やはり西洋美術より展示スペースは格段に少ない。何とかして、日本をはじめとする東洋美術の存在感を高めたいと思いました。
──その集大成が、1992年に手掛けた米シカゴ美術館東洋部の展示室、中でも「屏風ギャラリー」ですね。
設計は、建築家の安藤忠雄さんにお願いしました。日本ではすでに大家でしたが、この作品によって世界にその名を知らしめたといっても過言ではありません。2007年に金沢21世紀美術館の館長を辞した後、サザビーズ北米本社から招かれて米国に戻ったのですが、現在の兵庫県立美術館の館長をお受けしたのは、安藤さんと兵庫県知事の井戸敏三さんからのご依頼だったことが大きかったですね。
──米国の学芸員は、資金集めも重要な仕事の一つだとか。
米国の美術館には、たいていファンドレイジングという資金集めの専門部署があります。しかし、彼らは、学芸員一人一人のためにお金を集めてくれるわけではありません。学芸員は自分がやりたい展示を実現させようと思ったら、自分自身の展示に投資してくれるスポンサーを募らなければならないのです。私も、在米の日本の経済人など、あらゆる人脈を駆使して、随分援助をお願いしたものです。「日本美術の普及」を口説き文句にしてね(笑)。もちろん、「あいつは研究者じゃない」とか、随分陰口もたたかれましたよ。