政府が推進するGX投資の本当の意義
2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」で、日本は13年度を基準として温室効果ガス(その中のCO2が地球温暖化の最も大きな原因)を26%削減することを中期目標として定めた。その後、当時の菅義偉総理が20年10月、30年度の目標を46%削減に引き上げ、さらに50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロとするカーボンニュートラル(CN)を目指すことを宣言。
そして、政府では、25年2月に地球温暖化対策計画を改定し、「1・5度目標」に整合的で野心的な目標として、13年度比で、35年度60%削減、40年度73%削減とする新たな削減目標(NDC)を国連に提出した。
「菅元総理のカーボンニュートラル宣言は大きな影響を与えました」と話すのは、環境省地球温暖化対策課脱炭素ビジネス推進室の峯岸律子課長補佐だ。

「それまでは脱炭素と経済が拮抗するような捉え方をされていましたが、GX(グリーントランスフォーメーション)として、脱炭素、エネルギーの安定供給、経済成長を同時に実現するため、化石エネルギー中心の産業構造からクリーンエネルギー中心のものへ転換していくことが打ち出されました」
GXという方針が明確になったことで脱炭素投資も拡大した。23年5月に成立した「GX推進法」では、10年間で官民合わせて150兆円を超える脱炭素投資を進め、国内企業の競争力強化と経済成長との両立を目指す。「この投資は多くの企業にとってのビジネスチャンスといえるのではないでしょうか」と峯岸課長補佐。
日本は目標達成に向け、これまでのところ順調に温室効果ガスを削減しているが、同室の東條祐作環境専門調査員は、「CNの達成は現状の技術だけではなかなか難しく、技術革新も含めてチャレンジングなフェーズに入ってきている」という認識を示す。

技術革新とともにCN達成の鍵を握るのが、大手企業のサプライチェーンに組み込まれている中小企業の脱炭素経営意識の醸成だ。図1を見ていただきたい。Scope(スコープ)1と2は自社内で対策できるが、自社の上流と下流が関係するScope3は、サプライチェーン全体で対策をしなければならない。もし対応を怠れば取引機会の損失を招くかもしれないからだ。
その理由の一つとして、Scope3の算定義務化への動きがある。26年以降の導入および任意適用開始が検討されており、当面は東京証券取引所のプライム市場上場企業などが対象になりそうだが、その場合でもサプライチェーン内の企業に対して算定要請が行われることは想像できる。
そこで同省では、バリューチェーン(VC)上の企業間で連携して取り組みを推進する支援を行う。一例として東條環境専門調査員は、「これまでの企業個社の取り組み支援だけでなく、業界におけるScope3算定ルールの共通化やVC上の企業への依頼方法の統一化――報告フォーマットの統一などを支援していきます」と話す。