ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
岸博幸のクリエイティブ国富論

国民ではなく政治家と官僚の安心・安全を優先
南相馬市の仮設住宅問題に見る政府の裏切り

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第141回】 2011年5月27日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 東日本大震災の被災者向けの仮設住宅について、大畠国土交通大臣は5月17日に“8月前半には必要個数を完成させられる”との見通しを明らかにしました。これだけからは仮設住宅の建設が順調に進んでいるように見えますが、実際はだいぶ違うと言わざるを得ません。政府の判断が仮設住宅の建設の妨げとなっている事態が起きているのです。

福島県南相馬市で起きている問題

 それは、地震・津波もさることながら原発事故の被災地でもある福島県南相馬市で起きています。

 南相馬市は原発事故との関係では、福島第一原発から20キロ圏、20~30キロ圏、30キロ圏外の3つの地域に分けられます。20キロ圏は警戒区域で立ち入り禁止となっていますので、全住民が避難をしています。30キロ圏外については、原発事故との関連で何も規制されていません。

 問題は20~30キロ圏になります。政府は、20~30キロ圏については計画的避難区域と緊急時避難対象区域の二種類のエリアを設定していますが、南相馬市の20~30キロ圏はほぼ全域が緊急時避難対象区域に該当します。原発の状況が一段落したこともあり、津波で破壊された海岸沿いの地域を除けば、避難していた住民も戻り、また地元の商店なども営業を再開しています。このエリアの学校はすべて閉鎖されているなど多くの支障はあるものの、徐々に普通の市民生活が戻りつつあるのです。

 ちなみに、南相馬市の人口は約7万人ですが、津波と原発事故の被害により3万人が未だに県外・県内の様々な地域に避難しています。そして、それら被災者の方々に仮設住宅への入居希望を募ったところ、約3000件ありました。

 当然、仮設住宅の建設(及び民間住宅の借り上げ)を急がなければならないのですが、ここで問題が生じました。官邸が20~30キロ圏には仮設住宅を建設してはいけないと言うため、30キロ圏外の地域にしか建設できない状態になっているのです。

 しかし、南相馬市内で30キロ圏外の地域では、海岸沿いは津波で破壊され、仮設住宅の建設には適しませんし、内陸部の多くを占める山地も無理です。つまり、山地と津波で破壊されたエリアの中間の限られた平地にしか建設できないのです。その結果、南相馬市では現在のところ、1600戸しか仮設住宅を建設できない状態になっています。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


岸博幸のクリエイティブ国富論

メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。

「岸博幸のクリエイティブ国富論」

⇒バックナンバー一覧