東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

津波が起こる地震とは
――津波を引き起こす地震の規模はどのようなものでしょうか? 首都直下地震では発生しないのでしょうか?
首都直下地震では津波は発生しません。規模も含めていうと、いま警戒している津波は海溝で起きるマグニチュード9クラスの地震で起こるものです。
具体的には東日本大震災がマグニチュード9.0で、津波が20メートル弱ぐらい。南海トラフ巨大地震はマグニチュード9.1で、津波が最大34メートル、いちばん早いところで3分で到達すると予想されています。
首都直下地震は震源地が陸だから津波は起きないんです。陸で起きた地震に津波は関係なく、ほとんどの津波は海溝を震源とする地震で起きます。
しかもそのような地震は陸で起きる地震の1000倍以上の大きな規模です。
トンガの海底火山の噴火の影響は?
――2021年末のトンガの海底火山の大噴火が国内の地震に連動する可能性はどのぐらいありますか?
可能性はありません。8000キロメートルも離れているからまず関係ない。トンガの海底火山、そして日本も乗っている太平洋プレートが活発であることはたしかです。
ただ、それも特別なことではなくて、統計を取ったらこんなもんなんです。
太平洋プレートは2億年ぐらい動いていて、そのなかでは、活発な時期とそうでない時期を繰り返している。
僕たちの時間の尺度で、今年とか10年前とか20世紀は大変だというけれど、実は2億年ぐらいのスパンで考えると噴火や地震が起きることもあれば、静かなこともある。つまりはそれが普通ということです。
2022年1月にもトンガの北のほうでマグニチュード6.6という大きな地震がありましたね。
また、日本人にとっては福徳岡ノ場と西之島新島の噴火の問題のほうが大きいわけです。だけど、それは普通に起きるものです。
南海トラフ巨大地震と富士山噴火の関係
あとは繰り返しになりますが、火山については単純に30キロメートル離れると、もう互いに関係ないということがあります。
富士山と箱根、九州でいうなら阿蘇山と九重山、阿蘇山と霧島山、霧島山と桜島などの距離が30キロメートルほどで、それぐらい離れると、もうそれぞれ別個にマグマが上がってきて活火山をつくるということです。
それより遠いと直接の関係はない。
ただストレスはかかっているから、たとえば南海トラフ巨大地震でマグマが揺すられて富士山が噴火するということは起きます。
直接の連動はないけど、間接的に連動するということです。
そのような一つのストーリーとして、そもそも東日本大震災によって日本列島の地盤が不安定になり、地震や噴火の頻発を招いているということがあります。
参考資料:「富士山の噴火って遠い遠いと思っていたけど、近いうちに起きると思わないといけないのですか?」…京大名誉教授の「驚きの答え」とは?
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。