たとえば2年前にも、中国貴州省に行ったとき、静岡県の自動車関連で働いている人と3日間ぐらいルームシェアをしたことがありました。
彼が「うちの会社は今、週休3日なんだよ」と言うので理由を聞いたら、週休3日にすると国から交付金が出るから、休んでも給料は以前通り出るんだ、と(※8)。そういうシステムがあって、休んだ方が会社のためになるという状況があるなんて、まったく知らなかったわけです。
そんなときに感じる違和感がストーリーにつながると思うんです。東京にいても、なんでこんなところにドーナツ屋ができたんだろう、とか、当たり前の日常のなかで引っかかったものがストーリーにつながります。
※8雇用調整助成金制度:労働者の失業予防のために、国が事業の縮小を余儀なくされた企業に対し、雇用主として支払う休業手当や賃金の一部を国が支払う。2008年に助成率が引き上げられた
【法則5】目的と手段の順番を間違えない
――オリジナル作品より、漫画や小説を映画化する“原作モノ”を多く手がけていますが、一から脚本をおこすオリジナル作品に興味はないのですか。
最近、日本に限らず原作モノのほうが面白いと思っています。『ノーカントリー』(※9)も、『ダークナイト』(※10)も、『ソーシャル・ネットワーク』(※11)も、原作・原案モノですよね。
なぜかと言えば、ある作家がものすごいエネルギーで作ったものを、映画監督がまた違うエネルギーでつくると、そこにクリエーター同士の対決が起こるからだと思っています。オリジナルでそのレベルまで行くには、映画チームだけでそのコンフリクションを起こさないといけないから、相当大変です。
映画業界はオリジナル議論が好きな人が多いのですが(笑)、どうしても作りたい物語があって、でもそれがこの世の中に存在しないからオリジナルでつくる、という順番が正しいと思います。実は僕も3本ぐらいオリジナル作品を進めているのですが、それは映画でやりたいのに世の中にその物語がないからなんです。
オリジナルをつくるべきだから、という理由でオリジナルをつくる、というのは本末転倒ではないでしょうか。作る必然やモチベーションがないと、映画は面白くならないと僕は思っています。
※9『ノーカントリー』(2007米):小説「血と暴力の国」原作。老いた保安官が語る、アメリカ国境地帯で麻薬取引の大金を巡って引き起こされた凄惨な殺戮劇
※10『ダークナイト』(2008米英合作):米コミック「バットマン」シリーズの実写版第6作
※11『ソーシャル・ネットワーク』(2010米):ノンフィクションの企画書がベース。SNSサイト「Facebook」の創設・草創期を通じ、創設者マーク・ザッカーバーグの構想力の凄みや、友情、裏切りを描く
――最後に。ネットの台頭もありますが、映画の将来をどうご覧になりますか。
基本的に興行が主体で、それは変わらないと思っています。生活必需品ではないので、規模がものすごく拡大することはないでしょうけど、縮小もしない。