興行収入10億円で大入りといわれる邦画界で、『悪人』(興行収入19.8億円)、『告白』(同38.5億円)などのヒット作を飛ばす、東宝の映画プロデューサー・川村元気さん。5月には、著しい活躍が認められた映画製作者に与えられる藤本賞を最年少で受賞した。準備期間が1~2年と足の長い映画作りにおいて、いかに時代を先読みしテーマを設定するのか、インタビューから5つの法則が見えてきた。
【法則1】自分の趣味趣向を追求する
――デビュー作の『電車男』(※1)に始まり、昨年の『悪人』(※2)、『告白』(※3)と世に送り出した映画が次々にヒットしています。どんな基準で作品を選ぶのですか。
基本的には、趣味趣向というか、自分のなかの基準には抗えないと思うんです。自分がこういう映画を観たいな、とか、最近そういう映画を見ないな、という感覚を大事にしています。
マーケティングやデータ、フォーマットから生まれるものには限界があると思っています。大原則として、“自分の利き手でそのとき一番気持ちよく投げられるもの”を探しています。
基本は、笑って泣ける作品が、自分の“利き腕”だと思っています。2008年の『デトロイト・メタル・シティ(DMC)』(※4)は特に、20代の観客のイベントムービーとしてヒットしました。ヒットを打った感触は自分の手にもすごく残るし、周りからも同様の作品を期待されがちです。でも、お客さんは既に過去のスイングを研究して完全に見抜いているので、同じような作品を作っても受けない。
だからこそ変わらなきゃと思ったときに、もう一つの趣向として、ダークサイドムービーという方向性があったんです。
もともと人間の暗部や悪意に興味があって、それを笑いに変える方法で『電車男』も『DMC』も作っていたところがある。それで、暗部を突き詰めたらどんな話ができるかと考えたとき、ちょうど周りにもその手の映画が少なくなっていた。そんな気分と状況が重なって『悪人』と『告白』の企画を始めました。
※1『電車男』(2005):ネット上の電子掲示板2ちゃんねるへの書き込みを基にしたラブストーリー。山田孝之主演。ヲタクの主人公が、ネット上の応援を得ながら、電車で出逢った女性との恋愛を成就させる
※2『悪人』(2010):原作は、吉田修一の同名小説。妻夫木聡主演。殺人を犯した青年と、孤独を抱えるなか彼と出会った女性の逃避行劇を通じ、善悪併せ持つ人間の業を描く
※3『告白』(2010):原作は、湊かなえの同名小説。松たか子主演。教え子に愛娘を殺された中学校教師が仕掛けた復讐の罠と真相が、関係者の告白によって明らかになる
※4『デトロイト・メタル・シティ(DMC)』:原作はヤングアニマル(白泉社)に連載された同名ギャグ漫画。松山ケンイチ主演。おしゃれなポップミュージックを愛する青年が、それとは正反対のデスメタルバンドのギターボーカルとして成功し葛藤する青春劇