福島第一原子力発電所から近い福島県中通り・浜通り地域の災害廃棄物(がれき)処理が5月27日、一部の地域で再開されることが決まった。

 震災以降、外に長時間放置されたがれきは大量の放射能に汚染された可能性が高く、焼却やリサイクル処理の過程で放射性物質を拡散させてしまう危険性があった。そのため、環境省の指導により県内の仮置き場に集められ、いっさいの処理と県外への移動が制限されていた。

 ただ、処理が再開された地域でのがれきの放射線量は、原発から遠く離れた福島県内陸部の会津地方と同等かそれ以下であったという。これらのがれき処理の再開で、復興は着実に前進することになる。

 だが、そこには縦割り行政ゆえとも言える“矛盾”が横たわっている。

 放射能に汚染された建材やコンクリート、鉄くずというものは、本来であれば一般的には存在するものではない。通常であれば、こうした放射性廃棄物は、役割を終えた原発の廃炉の工程で大量に出るものであり、きわめて特殊なケースでしか存在しないものといえる。

 原発の廃炉における放射性廃棄物の処理については、経済産業省原子力安全・保安院が原子炉等規制法によって厳しく規制している。廃棄物に付着した放射性物質の拡散を防ぐためだ。放射性廃棄物か否かの基準は「クリアランスレベル」といって、10μSv/年(0.001μSv/時)がその境として定められている。

 人間が1年間に自然環境から受ける放射線量の世界平均は2.4ミリSv/年(2400μSv/年)といわれるので、このクリアランスレベルの基準値は、かなり厳しく設定されていることがわかる。

 ところが、今回は未曽有の原発事故により、普段ならありえないはずの放射性廃棄物が原発の外側に散在しているのである。

 つまり、中通り・浜通り地域の多くの地点に残されているがれきの放射線量はこのクリアランスレベルをゆうに超える可能性が高い。原子炉等規制法のクリアランスレベルに則れば、同地域のがれきはほとんどが放射性廃棄物に区分されると見られる。

 ところが「災害廃棄物」の処分についての管轄は環境省であり、当の環境省はこの状況に対して、「原子炉等規制法は原子力発電所などの原子炉施設に関して適用される法律。今回のような大量の災害廃棄物を放射性廃棄物として処理するのは現実的ではない」としてクリアランスレベルの適用はしない方針だ。そもそも、クリアランスレベルの基準値は、前述の通り自然界に存在する放射線量よりも低い値であり、そのことも今回適用しない理由として挙げている。

 だが、ある原発メーカー幹部はこう話す。「原発の廃炉の過程では、われわれはクリアランスレベルに則ってコストをかけて放射性廃棄物を処理しているわけで、大量だから、災害廃棄物だから別というのは矛盾している。とはいえ、福島でも同じようにやれなんて言えないし、それは無理であるのも事実。政府は安全性と既存の法律との整合性を考えながら玉虫色の着地点を探しているのだろう」

 環境省では「災害廃棄物安全評価検討会」で、まだ廃棄物処理が再開されていない地域についての具体的な処理方法を決めていく。同省職員は「地域住民へ説明するための論理構成を詰めていかなくてはいけない」と漏らす。

 経産省が産業界に課している厳しい安全規制を適用するか、復興を急ぐべく現実的措置をとるか──。地域住民のみならず、廃棄物処理で協力を申し出ている他の自治体の住民からも賛否両論が巻き起こることは必至である。環境省は板挟みになりながらの、高度な判断が求められている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)

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