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岸博幸のクリエイティブ国富論

記者の7割超リストラも!ネットにすがる日本のメディアには酷すぎる米国の惨状

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第45回】 2009年6月26日
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 前回は、米国での新聞業界の苦境と、新聞の将来を巡ってどのような議論が行われているかの概略を紹介しましたが、それにしても米国の新聞ビジネスは悲惨な状況になっています。新聞社の2009年第1四半期の収益を見てみると、前年同期比で28.3%も減少しました。この減少幅は、新聞どころか米国のメディア全体の歴史上最大だそうです。

米国の新聞の惨状で一目瞭然!
無料モデルではネットは儲からない

 このように新聞社の経営が苦しくなった理由は、広告費のマスメディアからインターネットへの急速なシフトです。特に広告収入に依存する割合が大きい米国の新聞社にとっては、日本以上にその影響が深刻になっているのです。

 そうした中、米国の新聞社はネットにシフトするユーザと広告費とを追いかけて、積極的にネット展開を図ってきました。そのため、ネット展開のビジネスモデルも、大半が広告収入に依存した“無料モデル”(ユーザはネット上では無料で新聞を閲覧でき、新聞社は広告から収入を得る)を採っています。ネット展開の初期の段階からユーザに課金しているのは、ウォールストリート・ジャーナルくらいではないでしょうか。

 そうこうするうちに、新聞不況がより厳しくなるにつれ、より厳しいコスト削減が必要となり、紙での新聞の発行を減らしてその分をネットで補おうとする新聞社も増えています。例えばデトロイトの主要日刊紙2紙は、今年春から新聞の宅配を週3日(木金日)に減らし、その分購読者にはネットを通じたサービスを強化するようにしました。また、シアトルの地方紙であるSeattle Post Intelligencerに至っては、今年春で紙メディアの発行を停止し、ネットのみで新聞サービスを提供するようになりました。

 このように、米国では今や新聞のビジネスモデルにおいてネットが非常に重要な位置を占めるようになりました。しかし、ネットを積極的に活用して苦境を打開できている訳ではありません。むしろ、様々な新聞社の試行錯誤から明らかになったのは、“無料モデルではネットは儲からない”という教訓でした。

収入の9割を失ったハースト傘下の地方紙

 実際に幾つかの数字を挙げましょう。

 まずニューヨーク・タイムズを見てみますと、紙については購読者が約110万人で収益は年間約20億ドルです。これに対し、ネット版のユニーク・ユーザ数は月2000万人もいるのに、ネットからの収益(広告収入)は年間約2億5千万ドルしかありません。その結果、関係者の試算によると、ネットからの収益だけでは、同紙の社員の20%しか雇い続けられないとのことです。

 この数字は、ニューヨーク・タイムズだけに限定した話ではありません。正確な試算は存在しませんが、米国の新聞全体で、ネットからの収益は新聞社の全体収益(紙の広告収入、購読料収入、売店での販売収入とネットからの収入の4つから構成されます)の10%程度に過ぎないと言われています。まさに新聞社はネットだけではとても儲からないのです。

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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


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