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安東泰志の真・金融立国論

「東電処理スキーム」と「貸付債権の簿価買取」は正当化できるか~今こそ問われる銀行界の良識

安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
【第10回】 2011年6月7日
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 東日本大震災から3ヶ月を経ようとしているが、政治の混乱もあってか、様々な面で軸足の定まらない対応が続いている。

 金融経済面だけで見ても、東電処理の問題と、いわゆる「二重債務者」の問題は相変わらず議論が錯綜している。いずれも初めに政治主導で「軸」を定めておけばこのようなことにはならなかったはずである。

東電処理の問題

 まず、前回の連載で簡単に触れた東電処理の問題は、原子力損害賠償法(原賠法)第3条ただし書き、すなわち「原子力損害が異常に巨大な天災地変または社会的動乱によって生じたものであるときは原子力事業者は免責される」という規定が該当するかどうかだけの判断である。その「軸」さえ固まれば、議論の迷走はあり得ないことである。

 政府は、当初からこの免責規定が適用されないと決めたのであるから、今回の損害賠償による巨額の負債に直面して、痛みを取るのは、株主→一般債権者→担保付債権者→優先債権者の順であることは前回述べたとおりである。通常は、被害者への損害賠償は一般債権となるが、これは原賠法の規定に従って、国が最終的にしかるべき措置を講ずることになっている。したがって、原理原則から言えば、まず上記(被害者への損害賠償分を除く)の順に痛みを取り、しかる後に、被害者への損害賠償に不足する金額(≒東電の債務超過額)について政府が責任を持つというのが唯一の正解となる。

 つまり、議論の「軸」さえしっかりしておれば、議論は単純なのである。なお、上記の手続きを最も公明正大にやろうとするならば、東電を法的整理とし、その枠組みの中で東電の事業(東電ではない)を円滑に引き継ぐ事業主体に営業譲渡することになろう。

 こうした議論をすると、「社債市場が混乱する」「新規融資が受けられなくなる」といった反発が出てくる傾向がある。しかし、「リスクを取ったはずの投資家や銀行が実はノーリスクであった」というような処理は、投資家の自己責任を原則とする資本主義市場では、好ましいことではない。また、法的整理にすれば、新規融資を受けるのは東電ではなく、東電の事業を引き継いだ、健全なバランスシートを持つ新規事業者なのだ。

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安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]

東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、1988年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーターとして手がけ、英国中央銀行による「ロンドンアプローチ・ワーキンググループ」に邦銀唯一のメンバーとして招聘される。帰国後、企画部・投資銀行企画部等を経て、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。創業以来、主として国内機関投資家の出資による8本の企業再生ファンド(総額約2500億円)を組成、市田・近商ストア・東急建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア・日立ハウステック・まぐまぐなど、約90社の再生と成長を手掛ける。事業再生実務家協会理事。著書に『V字回復を実現するハゲタカファンドの事業再生』(幻冬舎メディアコンサルティング 2014年)。
 


安東泰志の真・金融立国論

相次ぐ破綻企業への公的資金の投入、金融緩和や為替介入を巡る日銀・財務省の迷走、そして中身の薄い新金融立国論・・・。銀行や年金などに滞留するお金が“リスクマネー”として企業に行き渡らないという日本の問題の根幹から目をそむけた、現状維持路線はもはや破綻をきたしている。日本の成長のために必要な“真”の金融立国論を、第一線で活躍する投資ファンドの代表者が具体的な事例をもとに語る。

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