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安東泰志の真・金融立国論

東電処理にも企業再生の大原則を貫け 
~金融庁の新指針に見る今後の企業再生

安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
【第9回】 2011年5月11日
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 東日本大震災で直接間接の被害を受けた企業はもちろん、経営不振企業の再生一般について、4月以降、いくつかの動きがあった。留意すべき点について、まとめてみたい。

原理原則を外しつつある政府方針

 地震と津波による原発事故に遭った東京電力の賠償負担について、様々な素案が観測気球気味に新聞で報じられている。また、工場や家屋を失った結果、再建にあたって二重ローンを抱えることになる企業や個人の救済についても同様である。筆者はこれら観測記事について現時点で詳細に論評するのは時期尚早だと思っているが、一つだけ気になることは、世に示されたこれら素案なるものが、原理原則を外れて巧妙に既得権益側に利益誘導されつつあるように見えることである。

 企業再生の大前提たる原理原則は、法に従って費用負担が発生することであり、それはリスクを取った者が利益も損失も負担するという経済原則でもある。通常の企業再生であれば、まず債務者が極限までの固定費削減を行なう。JALの例でも明らかなように、多くの企業再生においては社員のOBにまで年金カットなどの負担をお願いすることさえ普通である。そこまでやってなお負債(賠償金を含む)が賄えない場合、株主→一般債権者→担保付債権者→優先債権者の順に負担が発生し、それでもなお負債が資産を上回る場合に初めて資本注入なり利益補填なりが行なわれるのが原理原則というものである。しかも、その場合の資本注入も、国の資金ではなく、可能な限り民間の資金(たとえば企業再生ファンドや、他の事業会社)などからなされるべきなのだ。

 ところが、東電の処理にせよ、二重債務者の問題にせよ、まず国民負担(税金の投入や電力料金上げ)によって債務者を救ってしまうような議論が先行し、本来コストを負担すべき者(社員・株主・債権者)たちの責任が棚上げされているように思われる。

 たとえば、二重債務者の方々は不運であり、人生の再建のためには、債務負担の軽減は必須である。しかし、それは一義的には回収不能債権として銀行がコスト負担すべき問題であり、それを抜きにして被災者の方々に国がお金を出し、結果的に納税者のお金で銀行を救うということであってはならない。

 仮に銀行が多額の債権放棄の結果として、固定費削減などの自助努力をしてもそのコストを賄えずに資本不足になるのであれば、その時に銀行が何らかの手段で資本増強を行なうべきなのだ(但し、仮にその際に国が資本注入をするとしても、被災地の銀行の経営者に対しては経営責任は問えない)。原理原則を踏まえない企業再生や復興支援策が続々と出てくる裏側には、既得権益側と政治・官僚の癒着があると取られても仕方があるまい。

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安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]

東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、1988年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーターとして手がけ、英国中央銀行による「ロンドンアプローチ・ワーキンググループ」に邦銀唯一のメンバーとして招聘される。帰国後、企画部・投資銀行企画部等を経て、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。創業以来、主として国内機関投資家の出資による8本の企業再生ファンド(総額約2500億円)を組成、市田・近商ストア・東急建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア・日立ハウステック・まぐまぐなど、約90社の再生と成長を手掛ける。事業再生実務家協会理事。著書に『V字回復を実現するハゲタカファンドの事業再生』(幻冬舎メディアコンサルティング 2014年)。
 


安東泰志の真・金融立国論

相次ぐ破綻企業への公的資金の投入、金融緩和や為替介入を巡る日銀・財務省の迷走、そして中身の薄い新金融立国論・・・。銀行や年金などに滞留するお金が“リスクマネー”として企業に行き渡らないという日本の問題の根幹から目をそむけた、現状維持路線はもはや破綻をきたしている。日本の成長のために必要な“真”の金融立国論を、第一線で活躍する投資ファンドの代表者が具体的な事例をもとに語る。

「安東泰志の真・金融立国論」

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