ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
飯田哲也の新・エネルギー原論
【第3回】 2011年6月16日
著者・コラム紹介バックナンバー
飯田哲也 [環境エネルギー政策研究所所長]

迷走続く原発事故賠償の枠組み
東京電力“ゾンビ”スキームの欺瞞

1
nextpage

まさに、欺瞞に満ちている。東京電力・福島第一原発事故の損害賠償スキームのことだ。賠償の支払い主体である東電の存続・上場を維持しながら、賠償金を支払い続けられるように、必要に応じた融資や資本注入を担う「原発賠償機構」を官民出資で設立する。結果、死に体の東電は“ゾンビ”のごとく存続する。賠償負担の原則は顧みられず、ただ、霞が関と銀行の都合が優先された結果にすぎない。

誰一人現実味を感じていなかった
「原子力損害賠償法」の適用

 東京電力・福島第一原発事故の損害賠償スキームが揺れている。

 5月13日、政府が発表したスキームは次のとおりだ。賠償の支払い主体である東電の存続・上場を維持する前提で、賠償金を支払い続けられるように、必要に応じた融資や資本注入を担う「原発賠償機構」を官民出資で設立する。しかし、直後から枝野幸男官房長官がこのスキームと矛盾する「金融機関の債権放棄の必要性」に言及して、メインバンクである三井住友銀行はじめ大手銀行が反発するなど、今も迷走を続けている。

 発表されたスキームがまかり通れば、死に体の東電は“ゾンビ”のごとく存続し、株主や銀行、東電の社債を持つ投資家のすべてが保護されることになる。賠償負担の原則が顧みられることなく、ただ、国民や電力ユーザーの負担、さらには将来の環境エネルギー育成に関連した成長可能性を犠牲にしつつ、霞が関と銀行の都合が優先された結果にほかならない。

 あるストラテジストとテレビ番組の収録でご一緒したとき、彼は自省をこめつつ、私にこんなことを言われた。

 「私は『原子力損害賠償法』の存在を知りませんでした。それだけでなく、日銀の方や普段私が情報交換をするエコノミストに聞いても、知っている人はほとんどいません」――。

 「原子力損害賠償法」とは、原発事故が起こった場合の、事業会社と国の責任範囲とその条件を定めた法律だ。アメリカの原子力損害賠償制度「プライス・アンダーソン法」を参考に、1961年6月に制定された。

 事業会社が強制的に加入させられる保険額(原子力損害賠償責任保険契約)の上限は、原子炉1基あたりわずか1200億円。昨年たまたま見直されたためにこの金額に変更されたが、それまでは600億円に過ぎなかった。

 プライス・アンダーソン法の上限が102億ドル(約8300億円)である。それを考えると、日本の原発事故に関する補償は少なすぎると言わざるをえない。しかも天災は、原則的に免責される。

 このストラテジストが告白したように、原子力損害賠償法を知る人は少なかった。法律の存在そのものは認識していた原子力の専門家のなかでも、現実に適用することになると想定していた人はほとんどいなかったのだ。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
まいにち小鍋

まいにち小鍋

小田真規子 著

定価(税込):本体1,100円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
簡単で安くて、ヘルシー。ポッカポカの湯気で、すぐにホッコリ幸せ。おひとりさまから共働きのご夫婦までとっても便利な、毎日食べても全然飽きない1〜2人前の小鍋レシピ集!「定番鍋」にひと手間かけた「激うま鍋」。元気回復やダイエットに効く「薬膳鍋」や、晩酌を楽しみたい方に嬉しい「おつまみ鍋」など盛り沢山!

本を購入する
著者セミナー・予定
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


飯田哲也 [環境エネルギー政策研究所所長]

1959年、山口県生。京都大学原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。大手鉄鋼メーカー、電力関連研究機関で原子力の研究開発に従事した後に退職。現在、非営利の研究機関の代表を務めつつ、複数の環境NGOを主宰し、科学者でもある。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府および東京都など地方自治体のエネルギー政策に影響を与えるとともに、国際的にも豊富なネットワークを持つ。主著に『北欧のエネルギーデモクラシー』、共著に『グリーン・ニューディール―環境投資は世界経済を救えるか』(NHK出版)、『日本版グリーン革命で 経済・雇用を立て直す』(洋泉社新書)、『自然エネルギー市場』(築地書館)など。5月に『今こそ、エネルギーシフト 原発と自然エネルギーと私達の暮らし』(岩波ブックレット/共著)を刊行予定


飯田哲也の新・エネルギー原論

東京電力・福島第一原子力発電所の事故は、私たちに様々な問題を提起した。夏場の電力不足への対応という短期的課題だけでなく、原発存続の是非や、電力の供給体制のあり方といった中長期的な政策に及ぶ議論が一気に噴出している。エネルギー政策の第一人者として知られる飯田哲也・環境エネルギー政策研究所所長が、問題の本質をひもとき、合理的な解決策を探求する。

「飯田哲也の新・エネルギー原論」

⇒バックナンバー一覧