「安定的なCPI前年比2%上昇」と定義される「物価安定の目標」を実現するべく、日本銀行が量的・質的金融緩和を導入(2013年4月)してついに5年目に入った。ところが、そのような日銀の信念とは裏腹に、CPI前年比2%はたった一度でさえ実現していない。この間の日銀の説明は「原油が予想以上に下がった」、「携帯電話機や携帯電話通信料の下げが大きい」など、外生的あるいは個別的なものが多く、説得力を欠くと言わざるを得ない。「CPI前年比2%」の実現が遠い中、日銀にとっての「本当の想定外」は、原油でもなければ携帯電話機や同通信料でもない。賃金である。賃金の伸び悩みこそが、家計の予想インフレ率を抑え、結果的に実際のインフレ率を低迷させてきた。その背景には、労働市場で起きた「3つの変化」がある。
10ヵ月ぶり前年比マイナスになった所定内給与
黒田日銀、本当の想定外は賃金の鈍さ
実際、賃金はCPIと密接に連動する(図表1参照)。したがって、CPIが安定的な前年比2%上昇に向かっているかを判断する上で、賃金の足取りを追うことは極めて重要である。
◆図表1:密接に連動する物価と賃金
出所:総務省『消費者物価指数』、厚生労働省『毎月勤労統計』よりクレディ・アグリコル証券作成 拡大画像表示