働き方改革が目指す「同一労働同一賃金」はなぜ実現しないのか

 働き方改革のコアとなる「同一労働同一賃金」のガイドラインが公表された。この目的は「非正社員の待遇改善を実現する方向性を示す」とされているが、いかにして正社員との賃金格差を欧州諸国並みに是正するかという、具体的なプロセスは示されていない。

 報告書では、(1)正社員と非正社員の賃金決定基準の明確化、(2)個人の職務や能力等と賃金との関係の明確化、(3)能力開発機会の均等化による生産性向上、等があげられている。いずれも当然の原則だが、仮にそれらが実現したとして、どのような道筋で賃金格差が是正されるのか。企業に対して明確化を求める割には、政府の意図は明確ではない。

 このガイドラインの本来の目的を実現するためには、書かれている内容よりも、書かれていないことの方に大事なポイントがある。

 競争的な労働市場では、賃金の低い企業から高い企業へと労働者が移動することで、賃金格差は自然に解消される。同一労働同一賃金が実現しないのは、そうした労働移動を妨げる障壁があるためで、それが何かを示し、取り除くための処方箋を描くのが、本来のガイドラインの役割である。

 このカギとなるのが「雇用の流動化」である。しかし、この肝心の点が報告書ではほとんど触れられていない。これは、(1)賃金は正社員主体の労働組合と使用者との合意で決める、(2)労使協調をもたらす固定的な雇用慣行の堅持、(3)その範囲内で非正社員にできる範囲のことだけするという「労使自治の原則」が、暗黙の前提となっているためだ。

 そもそも、過去の高い経済成長期に普及した「正社員中心の働き方」という成功体験へのチャレンジが、本来の働き方改革の核心ではなかったのか。日本の働き方は、特定の企業内での円満な労使関係にもとづいている。その反面、企業の保護の外にある非正社員との格差は大きい。労働者の高齢化が進む中で、定年退職後に1年契約で働く高齢者数は急速に増えており、非正社員比率が4割を超すのは時間の問題である。