東日本大震災の影響で発生した福島第一原発事故。いまだ終息のメドが立っておらず、我々は不安な生活を余儀なくされている。
特に懸念されているのが夏場の電力不足だ。金融庁は節電対策の一環として、証券業界に対し、7~9月のオフィスのエアコン設定温度を「最低30度以上」にするよう推奨している。
オフィス機器から発する熱が金融システムにあたえる影響を鑑みるに、事故発生前の稼働水準を保持するにはかなり厳しい要求だと言えよう。
いわんやそこで働く人をや。東京を例を挙げれば、都心に乱立する高層ビジネスタワーの窓は軒並み開かず、いわば密閉された空間である。停電や酷暑からくる作業効率の低下を考えると、本格的な夏が到来する前に対策を練らなくてはならない。
そこで営業時間を見直す飲食店、土日から平日休みに休日をシフト、さらには地方に拠点を移転する企業が増えている。
震災から2ヵ月後の5月中旬、健康食品のECサイトを運営するケンコーコムは、首都圏の電力不足を理由に本社機能の一部を福岡に移転した。もともと九州発の企業ということもあるが、東京にいる社員約150人のうち、管理部門やコールセンターなどに所属する約40人が移動。いずれは福岡本社を100人体制にするという。
さらに外資系企業の動きは早かった。家具販売大手のIKEAジャパンは、都内に計画停電が発表されるやいなや、千葉県船橋市から神戸市中央区に本社機能を移した。
同社や大使館(ドイツ大使館→大阪、フィンランド大使館→広島)が迅速な動きを見せたのは、いくつかの要因がある。土地が自社所有でなく賃貸であること。欧州圏の企業は、節税対策として本社機能を別国に据えることに慣れている点(スウェーデン企業のIKEAの本社はオランダにある)などなど。
このように、中長期スパンで見たリスク分散について、特にIT企業は対人窓口以外の部署を地方に移設するなど、6月-7月で活発化しそうだ。全業態が一同にとは言えないが、「冷房不要」が今後の企業立地の鍵ともなりうる。
こうした動きを“脱出”とするメディアも多い。だが冷静に考えて欲しい。企業にしても国の公的機関にしても、有事の際の対応に関してはもともと完璧に定めてあるに決まっているではないか。
つまりこうした拠点移転の動きは、完全なる移転ではなく、どの機能をどの程度移設すれば震災による影響を受ける前の状態に戻すことができるのか、あくまで震災前への回帰のために必要なことをしているにすぎない。
この夏、電車や店舗は冷房を控えめ設定にするだろう。自家用車や営業車に涼を求め、ガソリンスタンドに長蛇の列が……などといったことにならないよう、充分に気を配りたい。
(筒井健二/5時から作家塾(R))