―― たしかに、私たちは駅メロを「音楽」として聴いてはいませんが、日常の当たり前の「音」として、記憶の奥に刻み込まれているような気がします。

松澤 2005年のことですが、おそらく40駅以上の駅で採用されていたある駅メロが、一気に違う駅メロに変更されてしまったことがあったんです。なじみの「あのメロディ」が駅から消えていくと、当時、駅メロファンの中で大きな話題となりました。
 日本中の開店と閉店についての情報を集めた情報サイトがありますが、それと同じように、「今日はこの駅の駅メロが変わってしまった!」と、閉店ならぬ「駅メロ終了情報」がネット上に飛び交い、まだ聴ける駅に行って「最後の演奏」を味わう人たちも現れました。
 普段当たり前としてそこにある「音」がある日を境に消えてしまう。地元の古くからある商店がなくなってしまうのと同じような寂しさを覚える出来事でしたので、「マツコの知らない世界」番組内で熱く語りましたが、オンエアではカットされてしまいました(笑)。そのくらい、駅メロというのは、私たちの生活に根ざしたものなのだと思います。

耳コピの基本は、原曲の音を全て捉えること

―― 松澤さんが耳コピ(耳で聴いた音を楽譜に起こす)で演奏しているのは、駅メロだけではありませんよね。

松澤 はい、本業はサラリーマンですが、ゲーム音楽の演奏もやっていて、それは耳コピのものも多いです。そちらは実際にバンドを組んでライブ活動なども行っています。1980年代にハドソンのゲーム音楽を担当していた国本剛章さんとユニット「タケちゃん&健ちゃん」を組んだり、私自身がリーダーとなるバンド「NES BAND」を組んだりで、レトロゲームと呼ばれる1980~1990年代のゲーム音楽の配信やライブを行ったりもしています。

―― ゲーム音楽もまた、私たちの「無意識の中に刻み込まれている音楽」かもしれませんね。マリオやドラクエ、ファイナルファンタジーなど、子ども頃に何度も何度もやったことのあるゲームであれば、一瞬で「懐かしい!」と感じる気がします。

松澤 そうですね。ゲーム音楽についてはこれまで北海道から九州まで様々な場所でライブ演奏を行いました。曲自体が素晴らしいというのが第一ですが、皆さんすごく懐かしがってもくださいます。たとえばラスボスを倒す前の音楽などは、何度も何度も倒されゲームオーバーとなった苦い記憶と重なるのか妙な緊張感が走り、ゲームクリアした際に流れる音楽では、当時の達成感がよみがえったのか不思議な一体感が会場を包み込むこともあります。

―― 駅メロもゲーム音楽も、耳にした人それぞれの思い出と結びついているから、特に懐かしく感じるのかもしれません。耳コピする際に気をつけていることは何でしょうか?

松澤 とにかく「耳で聴いた音」を忠実に再現することを心がけています。曲として楽譜に起こす際には、あるべき音が入っていなかったり、逆に無い音が入っていたりとなることもあるかと思います。しかし、原曲を重視したい場合はあくまで耳で聴いたものをそのままコピーすることが「耳コピ」の基本となりますので、聴いたとおりにコピーすることがまずは第一となります。ただ、そのままだと物理的に演奏不可能なものもありますので、そのような場合は原曲の雰囲気を崩すことなくアレンジを行ったりもします。
 書籍『鉄のバイエル』という駅メロの楽譜集を作ったときは、かつて自分で耳コピして演奏し、動画サイトにアップしたバージョンから、さらに改良を加え、より原曲に近づけたものもあります。

※松澤さんの「演奏してみた」(駅メロの演奏)は、以下(動画)よりご覧になれます。