アユートは6月16日、Astell&Kernブランドの新フラッグシッププレーヤー「A&ultima SP1000」を国内発表した。先行予約は本日から開始、2017年7月7日に発売する。アキハバラ e市場での直販価格は49万9980円。

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A&ultima SP1000のステンレス版とカッパー版

 「Astell&Kern」は韓国アイリバーのポータブルプレーヤーのうち、上級製品に付けられたブランド名だが、SP1000からその下に製品コンセプトやターゲットを示す、セグメント名「A&ultima」を追加した。今後発表するAstell&Kernのモデルは「A&○○」の形で、必ずこのセグメント名が付く。ただし4月発表済のKANNは“パフォーマンスライン”として、この枠から外れるとのこと。

 A&ultimaはその名の通り「究極」を目指したプレーヤー。SPは「Supreme Performance」の略だという。従来のハイエンド機「AK380」を超えた音質と機能を持つ製品となる。

音質傾向の異なる、ステンレスと銅の素材を選べる

 特徴のひとつに筐体素材がある。Astell&Kernはこれまでも「AK240」「AK380」などの特別版として、標準モデルのジュラルミン製筐体とは別にステンレス素材、銅素材(Copper)を限定モデルとしてリリースしてきた。ジュラルミンより上級の素材を標準モデルにはじめから採用しているわけだ。

 過去のモデルの試聴でも実感しているが、筐体の差は、質感や重量だけではなく、音質にも影響が出る。理由はGNDラインの特性が変わるからだ。ステンレス素材採用モデル(Stainless Steel)は、解像度に優れ、きりりとしたクールなサウンド。銅素材採用モデル(Copper)は低音が太く厚みのある重厚なサウンドとなる。SP1000では、ステンレス/銅の2モデルを選択できるようにして、どちらの傾向を選ぶかをユーザーに委ねているわけだ。

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ステンレス版のSP1000

 ステンレスや銅は、音質面でジュラルミンよりメリットがあるというのがAstell&Kernの見解。ただし量産の難しさが難点だ。しかし過去3年の蓄積によってAstell&Kernはその量産できるノウハウを蓄積できたという。

 ちなみに第2世代機の「AK240」や第3世代機の「AK380」でジュラルミンを採用したのは、それ以外のモデル(第1世代機、第2~3世代機の下位モデル)で、アルミ合金を使用していたためだ。アルミ合金は量産や加工に適している。ジュラルミンも銅とマグネシウムを配合した「アルミ合金の一種」であるため、ステンレスや銅に比べて加工がしやすい。

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背面は引き続きカーボン素材を使用

 SP1000は、海外では5月に発表済。米国ではステンレス版のみ3499ドル(約40万円)と発表されていたが、今回、ステンレス・銅の価格が同じであることが明らかになった。ともにAK380のリリース時と同程度の価格。AK380SSやAK380 Copperが素材が違うだけでプレミアム価格を付けていたことを考えると、なかなかリーズナブルと言えそうだ。

 販売開始はステンレス筐体が先行するが、銅筐体もその約2ヵ月後に販売する。詳細は後日アユートから発表される見込みだ。

ド級プレーヤーAK380を凌駕する驚異的な性能と特性を持つ

 Astell&Kernのハイレゾプレーヤーは、第1世代機のAK100シリーズはWolfson製、第2世代のシリーズはCirrus Logic製、第3世代のAK300シリーズはAKM製とそれぞれ異なるメーカーのDACチップを採用してきた。第4世代のSP1000は引き続きAKM製のDACチップとなるが、世代が最新の「AK4497EQ」。これをデュアル搭載する。

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AK380との違い

 DAC以外の進化ポイントとしては、8コアCPUの採用による基本性能のアップ、液晶タッチディスプレーの大画面化(5型/720×1280ドット)、外部接続端子の変更(Micro-USBからより高速なUSB 3.1 Type-Cに)などがある。

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底面のUSB端子はUSB Type-Cとなった。外部出力用ピンには「AK-Ripper」など従来の周辺機器の一部が接続できるようにするとのこと
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側面

 CPUの処理能力が向上したことで、起動時間が短縮。さらに転送速度は従来の倍となる最大10Mbps(理論値)となり、より高速なデータ転送が可能になったとする。バッテリーは急速充電可能で、2時間の充電で12時間連続再生できる。

 再生可能フォーマットはDSD256(最大11.2MHz)および384kHz/32bitのPCMでいずれもネイティブ再生に対応する。

 内蔵メモリーは256GBで、ほかにmicroSDカード(最大256GB)スロットも1基用意する。

 カタログスペック上の特性も改善している。出力が2.2Vrms(アンバランス)/3.9Vrms(バランス、無負荷時)、S/N比が120dB(アンバランス)/122dB(バランス)、THD+N(歪み率)が0.0005%(アンバランス)/0.0008%(バランス)と、AK380と比べても、進化を感じる数値だ。

 特にS/N比の改善幅が高い。高出力化・低ノイズ化によって、サウンドステージがより広く、セパレーションも改善した。なおバランス駆動時の歪み率は、AK380より劣る数値だが、これはアンプを高出力化した影響とのこと。

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AK380との特性の比較

 外観では本体がだいぶ大きくなったことに加えて、音量調整用のダイヤルに電源ボタンの機能も持たせた「マルチファンクションホイールキー」を新たに採用した。これまでの機種では電源ボタンが上部にあったが、代わりにmicroSDカードスロットを配置し、ケースを付けた状態でカードの抜き差しができるようにした。

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microSDカードの収納部分とイジェクトピン

 ただしプッシュしてカードを取り出す従来機とは異なり、カードの抜き差しにはイジェクト・ピンが必要となった。頻繁に抜き差しする用途にはあまり適さないかもしれない。

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ダイヤル部分
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音量調整時のGUIも「A」をかたどったデザインに
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細かいが、上部のアイコンも「A」のデザインになっている

 AK380の特徴だった、超低ジッター200FsのVCXO Clockも引き続き採用。Wi-Fiを利用したネットワーク再生機能のAK CONNECT、USB-Audio出力、USB DAC再生、パラメトリックEQ、Groovers+を使った音源購入機能なども継承している。

特徴あるデザインに加え、GUIの進化も

 本体サイズはおよそ幅75.8×奥行き16.2×高さ132mmで、重量は約386.6g(カッパー版は397.9g)。AK380 SS(約79.8×17.9×112.4mm、重量約340g)と比較して、本体はだいぶ大型化したが、単体での重量はそれほど変わらず、AK380 AMP SS(約163g)装着時よりはだいぶ軽い。

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3.5mm3極性の端子に加えて、2.5mm4極のバランス駆動用端子も持つ

 reddot design award winner 2017も獲得した本製品は、原石を多面的にカットし、研磨した高価な宝石をイメージした特徴あるデザイン。例えばボリュームホイールは様々な角度から光を反射するさまを表現している。エッジ部分の落とし方なども精度が高く、AK240以降取り組んできた、光と影の演出を継承しつつ、より高級感あふれるデザインになった印象だ。

 GUI変更も新機種のポイントだ。従来はホーム画面にまずメニューが表示されたが、今回からアルバムアートと再生画面が表示される。画面上の「A」を押すとメニューが表示されるが、ホーム画面で上下左右にスワイプすることでも、選曲画面やプレイリスト画面、通知パネル、再生履歴などが参照できる。慣れるとスピーディーに目的の機能が呼び出せそうだ。

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ホーム画面、左上の「A」がメニュー画面、右上の線が並んでいるアイコンが再生リスト表示、ジャケット写真下の左矢印が直前の画面に戻る、その右の「+}が再生リストの追加、中央が再生リストの参照となっており、再生画面を中心にわかりやすくホーム画面が整理された
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GUIの変更点

 UI面では左端のバックボタンが割と便利に使えた。なお、下からのスワイプで表示される再生履歴はタップしてすぐ曲の再生ができるわけではなく、一段深いメニューで一度再生リストに入れる必要がある。

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メインメニュー。ホーム画面の右スワイプで表示できる
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上からのスワイプで表示させる設定用UIは、アイコンが大きくわかりやすくなった
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下スワイプで出てくる再生履歴画面、ここで曲をタップしても直接再生はできず、一度プレイリストに入れる必要がある

 付属ケースは北欧のタルンショファルベーリ製の天然皮革で、木製の箱に入れて出荷される。microSDカード用トレーの開閉に使う、EJECT PINは「A」ロゴデザイン仕様となる。ちなみに、AK380で用意されていた拡張アクセサリーのうち、AK Ripperに関しては使用できるようになる見込み。アンプの投入に関しては、検討中だが単体で十分な駆動力があることもあり、自社開発ではなくサードパーティーの開発に委ねる可能性も高いようだ。そのためにピンアサインなどの情報を積極的に開示していくとする。

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プレイリスト・再生リストへの楽曲追加も分かりやすくなり、上部の矢印と「+」のアイコン、リストと「+」のアイコンを押すことで設定する

AK380 SSと比較試聴してその質の高さを実感

 取材では、A&ultima SP1000(ステンレス版)のサウンドも確かめた。手持ちのIEM(JH Audioの「Michelle」)を持ち込み、アンバランス接続で、宇多田ヒカルの人気曲「花束を君に」(96kHz/24bit)を聴く。

 一聴して、感じたのは「スゴイの一言」。

 音の透明感と雑味のなさ。そして音が軽々と立ち上がり、おおらかに抑揚をつける余裕感など、ポータブル機でこれまで聴いたことのない水準だ。その再生能力の高さには舌を巻く。何より感心したのは、音像が頭のど真ん中に気持ち悪いぐらい正確に定位すること。左右の音の位相がピッタリと合うためだろう。ここまでハッキリと音像が定位するのをイヤフォンで感じた記憶はない。

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KANNおよびAK380SSとのサイズ比較

 比較用に用意されていた。AK380SSも同じ組み合わせで聴いてみた。

 筆者は以前、AK380の各モデルを順番に試聴したことがある。AK380SSのサウンドは硬質でゆるみなく、完ぺきに研ぎ澄まされていると感じたが、そのサウンドですら、音の濁りやノイズ感があり、「多少の暴れがあるサウンド」だったと認識する。SP1000のサウンドは、このぐらい驚かされる精度とクオリティーの高さを感じさせるのだ。

 S/N感の高さは、曲前半の音数が少ない部分でも分かる。声の余韻や微小な揺らぎなど、素材のニュアンスがひしひしと伝わってくるが、ヘッドルームを広くとっても、微小な音がノイズに埋もれず、より細かいディティールや質感まで聴かせるためだろう。例えば30秒付近の「はぁー」とSE的に入る声のリアルさ。これひとつとっても異次元に入った感覚だ。

 AK380SSになく、SP1000にある要素としては、音が柔らかくほぐれる点がある。AK380SSは高解像度かつワイドレンジだった反面、硬質さや冷徹さを意識する面もあった。SP1000の響きは深くて豊かである一方で、よどみがない。音の柔らかさ滑らかさと解像感が両立していた。

 ドライブ能力に関しても「余裕感がある」のひとこと。1:00過ぎの間奏部で楽器の数が増えてくると、その実力が分かる。よりにぎやかに音数が増えても、一切の破たんがない。出力はAK380より上がっているが、単に大きな音が出せるというわけではなく、うまい歌手が腹式呼吸と腹筋を使って声を出すように、音の強弱を適切かつゆとりをもってコントロールしている感じであった。

 S/N感の高さや解像度、透明感の高さは、AK380SSの特徴でもあった。実際筆者も過去の記事でAK380SSのサウンドをすごいと書いている。改めて読むと、SP1000のインプレッションでも、そのときとほぼ同じ表現を繰り返している。しかし、その水準はより一層、上の次元に到達した。

 SP1000のサウンドを聴くと、AK380SSのタイトな低域ですら、ぼんやりとすこし不明瞭で、量感を少し誇張しているように感じてしまう。これはもちろんAK380SSの性能が低かったということではない。SP1000の完成度が、正直言ってすごすぎるのである。

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本体は木製ケースに入れて出荷される

カッパー版のバランスの良さも捨てがたい

 さて、実際に購入を検討している人にとって、SP1000のステンレスモデルと銅モデルのどちらを選ぶかは、本当に悩ましい選択だろう。

 試聴機があったため、サンプル版のA&ultima SP1000(カッパー版)も聞いてみた。筆者はこれまでの機種では、銅とステンレスでは断然ステンレス派だったのだが、SP1000では銅のサウンドにかなり心を惹かれてしまった。特にハードロックとの相性は抜群で、ボン・ジョヴィの「Because We Can」などを聴くと、スケール感の大きさ圧倒されてしまう。

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 これまでステンレス版を支持していたのは、ずば抜けた情報量と解像度の高さが理由だった。しかし、SP1000ではこれらに不足がない点もあり、カッパー版の安定感のある低域のバランスが絶妙に感じられた。

 ちなみにカッパー版は試作機で、同じ音量設定でもステンレス版に比べて音圧感がかなり増していた。これは特性の違いなのか、試作機だからなのかは不明。少し気になった部分ではある。

 その後、ステンレス版に戻して、さらにDSD 11.2MHzのソースとして交響組曲AKIRAから「金田」を聴いたが、音の濃さ、空間の密度感、そして激しい移動感がすさまじい。

 さらにクラシックの名曲イ・ムジチの四季から「冬」(192kHz/24bit)を聴いたが、こちらも音色の美しさと華やかさがとても魅力的だった。

 SP1000を聴くと、ハイレゾ音源が持つ情報量の再現には、これまでの最高級クラスの製品でもまだまだ不十分な面があったのだと実感する。特に位相の正確さ、セパレーション、そしてS/N感の高さで、SP1000は群を抜いている。ハイエンドを追い求めていきたいと考える人に対して、またひとつ楽しみで、(価格面では)悩ましい存在が登場した。