
人間ではなく、AIが商品選定から購買判断・決済までを自律的に担う「エージェンティックコマース」の普及が日本でも現実味を帯びる中、AIに理解され、選ばれるために、ビジネスモデルの再定義が急務だ。AIエージェント時代の購買プロセスの変化と、企業がかじを切るべき方向性を読み解く。
購買の入り口が変わるとき
欲しい商品を検索エンジンやECモールで調べ、複数のページを見比べる──。私たちが長年「当たり前」としてきたこの購買行動が、今、根底から変わり始めている。
「若い世代を中心に、検索エンジンで調べるのではなく、AIチャットで相談して、そのまま決めるという購買スタイルが台頭してきています」
アクセンチュアで顧客接点の変革を主導する、Accenture Song マネジング・ディレクターの槇隆広氏は、こう指摘する。AIがユーザーの代わりに最適な商品を選び出す「エージェンティックコマース」の波は、もはや無視できない規模に膨れ上がっている。
この変化の下で、企業が直面する現実はあまりにも残酷だ。
「どれだけ優れた商品・ニーズにマッチした商品であっても、AIに見つけてもらえなければ存在しないのと同じです。当社でもAIエージェント可視性の簡易診断を行っていますが、日本企業のECサイトは、AIから見たときに情報が欠落しているケースが少なくありません」(槇氏)
人間にとってどれほど見栄えが良く分かりやすいサイトであっても、AIはそれを理解できない。従来のSEO(検索エンジン最適化)やUI/UXに固執し、“AIに見つけてもらうための最適化”の必要性に気付いていない企業が多いのが実態だ。
世界全体のGDP(国内総生産)の約1.6%に相当する取引を扱うグローバル決済インフラ企業、Stripeの日本法人ストライプジャパンでマーケティング責任者を務める岡本智史氏は、日本企業の現状に強い危機感を抱く。
「米国では、AIが商品選定から購買までを代行する世界がすでに動きだしていて、日本でも『来月から始まる』と言われてもおかしくない状況です。しかし、この波に乗るための対応には長い場合で1年以上の歳月を要します。だからこそ、今すぐ準備を始めないと間に合わないというのが実感です」
2025年9月末にOpenAIとStripeがエージェンティックコマース実装の要となる世界標準プロトコルを発表してから、毎週のように、驚異的なスピードで着々と世界が変わり始めている拡大画像表示
2030年までに小売りの市場規模で5兆ドル(約750兆円)にも達するとの予測もあるエージェンティックコマース。この巨大市場が動きだす新時代、勝ち残る企業となるために進めるべき戦略刷新の正体とは。
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